私たちは日々の食事について、考えて選んでいるようで、実はなんとなく手に取っていることが少なくありません。明確な理由があるわけではなく、価格や手軽さ、生活習慣といった基準で、意識しないまま選択していることも多いものです。
普段手に取る食材について知ることは、正解や完璧を見つけるためではなく、自分の興味や感覚を思い出すヒントになります。どのようにつくられ、どんな道のりを経てきたのかを知ったとき、「これが食べたいかもしれない」と、輪郭が浮かび上がることがあります。
今回は、素材がつくられた背景や環境、そして美味しさといった視点から、食を選ぶ手がかりを集めました。食べることを義務感ではなく、楽しみや暮らしの実感として味わっていただけたらうれしく思います。

野菜やくだものは、普段どのように選んでいますか。一年中、価格以外はほとんど同じ見た目・商品構成の青果売り場では、形や鮮度はチェックしても、その都度味わいにまで思いを巡らせていないかもしれません。
本来、旬の短い時期にしか出回らない品目も、施設や品種改良・貯蔵技術の発達によって、年間を通じていつでも手に入れることができるようになりました。ひとつの野菜でも、露地やハウス栽培といった違いや、時期で産地が大きく移動していることもあります。
同じ野菜でも、そのときどきで、味の印象が違うように感じることはないでしょうか。大根の場合、冬は糖度が高まり、春には水分が多くさっぱりとした味わいになるなど、季節によっても野菜の性質が大きく変化していきます。いつ、どこで、どのように育てられたものなのかを知ることで、その理由や傾向が見えてくることがあります。そうした違いを知ることは、日々の食卓をより豊かなものにしてくれるはずです。

国産と外国産
国産野菜は鮮度や品質が安定し、フードマイレージ(part2参照)も低い一方、価格は変動しやすい。輸入野菜は全体の二割を占め、その主な品目は玉ねぎ・かぼちゃ・人参・ねぎ・ごぼうなど。生産コ ストや規模の違いから比較的価格は安定。長期輸送では、カビや害虫を防ぐためポストハーベスト農薬(収穫後農薬)が使われる場合があり、日本では食品添加物として扱われる。
農薬
農作物の収穫量や品質を安定させるために使用される薬剤。農薬取締法に基づき安全性の評価が行われ、問題がないと判断された農薬のみが登録されている。日本では残留基準が定められており、基準値以下であることが流通の条件。


硝酸態窒素
窒素肥料の過剰な使用により、作物が使いきれない窒素が「硝酸態窒素」として植物に蓄積する。苦味やえぐみの原因となり、地下水汚染の要因にもなる。葉菜類は比較的硝酸態窒素濃度が高い傾向にある。
オーガニック・有機認証
環境や健康への意識を背景に、認証団体の基準に基づいて認定された生産物・加工品。化学合成農薬(認可農薬は使用可)・化学肥料・遺伝子組換え技術を使わないなどの基準がある。日本の耕地面積に占める有機農業の割合は、2024年時点で0.7%。


自然栽培
田畑を取り巻く環境、そして作物の資質を引きだすことを軸にして、「肥料」や「農薬」、または同等の効力が生じる資材を農地や育苗土に使用しない農業方式。いのちと環境を尊重しながら、土づくりや耕起など積極的に土に関わる取り組み。公的認証制度はなく、定義はさまざま。
F1種と固定種
異なる性質の品種を交配してつくられた種をF1種という。一代に限り均一な品質を持つのが特徴で、収穫量や品質を安定させるため広く利用される。一方、形質が固定され自家採種で受け継がれてきた品種を固定種という。伝統野菜や在来種は固定種に含まれることが多い 。

日本の食卓に欠かせない「お米」。売り場に並ぶお米は、どれも見た目が似ていて違いが分かりにくく、実は生鮮食品なのですが、その認識を持ちにくい食材です。最も身近な存在であるがゆえに、食味について改めて考える機会も多くないかもしれません。ですが、お米は品種や産地による味わいの違いを楽しむことができたり、保管方法や炊き方を工夫することで、美味しさを大きく引き出せる食材です。
さらに、稲が育つ水田は単に米を生産する場にとどまりません。水を蓄えて洪水を緩和する治山治水の機能や、生き物を育む環境保全の役割、風習やコミュニティの形成など、これまで多面的な機能を担ってきました。
しかし、生活スタイルの変化に伴い、日本では米の需要が減少し、稲作農家の戸数も減っています。米づくりは野菜の栽培と比べて、一定の所得を確保するために広い作付面積が必要とされるため、面積規模の小さい個人経営体では農地の維持が難しい現実もあります。

品種と産地品種銘柄
米は、全ての都道府県で栽培されている数少ない農産物であり、作付けされている米の品種は約300種ある。そのうちコシヒカリが全体の3割を占める(2022年)。産地品種銘柄は、「産地」と「品種」を組み合わせて付加価値を高めて、差別化を図ったもの。
ブレンド米
年によって収穫量や品質に差が出るため、一定の味を保つ目的で複数の原料米をブレンドして調整する。価格を抑えることを目的としたブレンドでは、規格外米や農産物検査を受けていない米などが原料として使用される場合も。


お米の消費量
1962年の年間118kgをピークに、一人あたりの米消費量は年間53kg(2024年)まで減少している。要因は食の多様化・洋食化にともなう米離れや米食習慣の希薄化。家庭で炊飯する割合が低下する一方で、外食・中食においての米食の割合は増加している。
お米の添加物
古米が割れにくくなることや、精米後の米の白さ・光沢を高める目的で、プロピレングリコールといった添加物を含む「精米改良剤」が精米時に使用される場合がある。また、市販のおにぎりや弁当のごはんには、食感向上や品質保持のため、pH調整剤・保存料・酸味料などが使用されることが多い。


ネオニコチノイド系農薬
化学合成農薬の中でも浸透性が高く、生物の神経に作用する殺虫剤。農業分野で広く使用されている。米の等級制度では見た目が重視されるため、カメムシの吸汁による斑点米(黒い食害痕)を防ぐ目的で水田にも散布される。一方で、ミツバチの大量死との関連が指摘されているほか、生態系へ の影響も懸念されている。
放射線育種米
種子に放射線を照射して突然変異を誘発し、その中から特定の性質を持つ個体を選び出す技術で育成された米。従来の品種改良の一手法として知られる。具体的には、冷害に強い・倒伏しにくい・重金属を吸収しにくいなどの特性を持たせることが可能。

幕末の開国をきっかけに、日本では肉食文化が広まりました。牛肉は文明開化の象徴として庶民にも広がり、食文化の転換点となりました。約150年が経った現在、私たちの食卓では肉・卵・牛乳が日常的な食材となっています。牛・豚・鶏肉を合わせた一人当たりの年間消費量は33.8kg(2021年)と過去最高を記録し、鶏卵の年間消費量は世界第4位(2024年)と、日本は畜産食品の消費が多い国の一つです。
こうした食生活は国内外の農業や資源とも深く結びついています。日本の食料自給率(重量ベース)は肉類53%、牛乳・乳製品63%、鶏卵97%(2024年)ですが、家畜の飼育には大量の飼料が必要です。日本の畜産は農業総産出額の約36%を占める基幹産業ですが、飼料の多くを輸入に依存しています。
近年は畜産による環境負荷やアニマルウェルフェアへの関心の高まりを背景に、代替肉や植物性ミルクといった食品も登場し、徐々に社会での認知が広がりつつあります。

牛乳・乳製品の種類
牛から搾ったままの乳を生乳、生乳を加熱殺菌したものを牛乳という。脂肪球が分離しないよう均質化(ホモジナイズ)したものが一般的で、均質化していないものはノンホモ牛乳と呼ばれる。生乳に乳製品などを加えた加工乳、乳以外の原料を加えた乳飲料もある。
品種改良
肉食文化が本格化して以来、生産性や品質の向上を目指し家畜の品種改良が行われてきた。乳量の多い 高泌乳牛、脂肪交雑(サシ)を向上させた肉牛、成長率・繁殖率を高めた豚や鶏などが現場で飼育されている。動物福祉の観点や、遺伝的多様性の減少による病気・怪我への脆弱化が指摘されている。


飼育環境
ワールドアニマルプロテクションが公表している動物保護指数では、日本は7段階中Eランクの評価。日本の養鶏の90%以上がバタリーケージ(狭い多段式ケージ)を採用。養豚では母豚が妊娠ストール(個別の檻)に入れられることが多く、乳牛の7割以上が繋がれたまま飼育されている。
アニマルウェルフェア
感受性を持つ生き物としての家畜に配慮し、誕生から死を迎えるまでの間、できる限りストレスが少なく、行動要求が満たされ、健康的に暮らせる飼育方法をめざす畜産の考え方。アニマルウェルフェアが損なわれると、同じ動作を繰り返すなどストレスに由来する異常行動や、病気の罹患率・死亡率の上昇といった変化が生じることがある。


ジビエ
過疎化や高齢化による里山の管理不足で人里との境界が曖昧になり、シカやイノシシによる農作物被害が大きな問題となっている。捕獲が進められるとともに食材(ジビエ)としての利用も進められているが、捕獲された個体のうち、食肉として利用される割合は一割程度にとどまり、残りは処分される。
代替肉
環境問題・動物福祉といった意識の高まりを背景に、大豆などの植物性原材料を用いて食肉の見た目や風味・食感に似せてつくられた加工食品、または細胞培養技術を用いた培養肉などを指す。風味を肉に近づけるため食品添加物が使用されるもの、また、肉エキスなど動物性原料を含むものもある。

日々の食卓にのぼる刺身・焼き魚・煮魚、お正月のお節料理や祝いの席の鯛など、魚は私たちの暮らしに欠かせない存在です。四方を海に囲まれた日本は、生産性の高い河口や湖にも恵まれ、世界でも生物多様性の高い海域の一つとされています。その豊かな環境は、古くから多様な魚食文化を育んできました。
近年、簡便化や低価格志向の影響で、スーパーでは切り身や加工品など調理しやすい形態の水産物が多く並ぶようになりました。また、流通量が多い輸入品が増えたことにより、国内漁業に影響を与え、国産水産物の供給や日本の生産力の低下につながっています。日本では1984年をピークに、漁業・養殖業の生産量が減少し続けています。
また、水産資源の乱獲や海水温の上昇などの影響で、世界の天然漁獲量は1990年代以降ほぼ横ばいとなっています。一方で養殖による生産量は増加し、現在では水産物生産の半数以上を占めるまでになっています。

産地
漁業における「産地」は、主に魚介類が水揚げされた漁港、または水揚げ港のある都道府県を指す。必ずしも魚を漁獲した海域とは限らず、遠洋漁業の場合でも、水揚げされた港が産地表示となる。
魚の旬
その魚が最も美味しいとされる時期を旬という。一般的には産卵前で栄養を蓄えている時期を指し、市場やスーパーに多く並び、価格も比較的手頃になる。養殖や冷凍技術の進歩により、多くの魚が年間を通して安定流通するようになり、旬がわかりにくくなっている。


天然と養殖
天然魚は、自然環境で育ち運動量が多く、旬の時期に味が良くなるとされる。稚魚をいけすなどで飼育する養殖は、通年で品質が安定している一方、病気対策として薬剤が使用され、予防目的のワクチンも広く用い られている。稚魚を捕獲して育てる「畜養」、卵から稚魚までを人工的に育てて海へ 放流する取り組みを「栽培漁業」という。
未利用魚
漁業では、サイズの不揃い・処理の手間・漁獲量が少なく流通単位がまとまらないなどの理由から、食用として流通しない「未利用魚」が生じる。産地の収入向上や、魚介類の消費拡大を通じた食料自給率の向上を目的として、未利用魚の活用の取り組みが広がる。


IUU漁業
いつ、どこで、何を、どれだけ、どう漁獲したのかが把握されない「違法・無報告・無規制」で行われる漁業のことで、密猟もその一部。水産資源の枯渇や海洋生態系の悪化を助長するだけでなく、正規の漁業へ の経済的損害や、従事者の人権侵害の問題を引き起こす世界的課題となっている。日本に輸入する天然水産物の約三割がIUU漁業由来と推定される。
魚の認証
生態系や水産資源の持続性など、環境に配慮した方法で漁獲・生産された水産物であることを第三者機関が認証する制度。漁業の認証として「MSC」、養殖業の認証とし「ASC」、日本発の制度として「MEL」などがある。

Part2では、「食をえらぶためのkeyword」調味料、加工品のほか、食品全体にまつわるキーワードについてご紹介します。
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