ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、カカオ豆から見える世界の様々な問題について、前後編にわたりお届けします。
前回の記事はこちら
「カカオ豆から見える世界」前編
すべての社会問題を凝縮している作物
チョコレートの甘くない現実とは?
前編では、西アフリカを中心としたカカオ豆の主要生産国で起こる、価格高騰の原因や取り巻く問題をお伝えしましたが、後編では、それらをさらに深掘りしていきたいと思います。
前編でもお伝えした通り、この1年でカカオ豆の価格が3倍に跳ね上がっていますが、この価格は先物取引上の価格であり、つまり投機的な資金が集まることで起きています。価格が上がったきっかけは、気候変動の影響で生産量が落ち込んだことにあり、そこに今後流通量が落ち込んで、価格が高騰することを見込んだ投機的な資金が流入したことがはじまりです。なので、実質的な経済状況とかけ離れた価格が形成されているのです。
また、チョコレート産業の構造として一部の大手チョコレート企業が市場価格を操作しているとの指摘もあります。これらの企業は、巨大な購買力を背景に、カカオ豆の価格を意図的に引き上げ、特定の市場からの供給を制限することで、自社の利益を最大化しようとする戦略を取っているとも言われています。実際ピラミッド構造の上部にいるわずか数社が、価格決定に対しても大きな影響力を持っています。
これが、近年の価格高騰でもカカオ生産者の賃金の上昇にほとんど影響を与えていないことの理由です。消費者がチョコレート製品に払う金額の6%しか生産者に渡っておらず、フェアトレードのチョコレートでさえも10%程度と言われています。
森林の消失もこの価格決定の構造と深い関係性があります。森林を伐採してカカオの栽培面積を広げる理由には、カカオ農家の賃金が上がらないため、少しでも収入を増やすために栽培面積を増やし続けるしかないという事情があります。さらに森林消失のもう一つの大きな原因として、金の採掘の問題があります。ガーナは輸出産業としてカカオ以外に金がありますが、ガーナ政府によると、2019年から2022年までの間に19,000ヘクタール、東京ドーム4,100個分以上のカカオ農園が、違法な金採掘者によって買収・破壊され、2023年度もピーク収穫高の15%に相当する15万トン分のカカオ豆が失われたと推測されています。
近年は金の価格もカカオと同様に大きな上昇を続けています。ガーナでは金価格が高騰した2008年以降の5年間に、5万人の中国人が違法な金採掘に押し寄せるゴールドラッシュが起きました。実はこの中国人の多くが、上林(シャンリン)という特定地方からやってきた同郷者集団で、彼らは手掘り金採掘の長い伝統を持つ少数民族でしたが、経済発展から取り残され過疎地帯となり、中国でも最も貧しい地域の一つになっていました。いつしかガーナに行けば億万長者になれるという噂が広まり、人口わずか50万人の上林から、ピーク時には6万人がガーナに向かったと言われています。
また、前編でお伝えした通り、ガーナの経済状況もカカオ豆高騰に関係しています。今ガーナが債務不履行に陥っていますが、その原因には、先進国の金利の上昇があります。コロナ禍で先進国が通貨量を大幅に増やしたことでインフレが起きて、今度はそのインフレを抑え込むために金利を急激に上昇させたため、一気にガーナから投資資金が回収されてしまったのです。お金は金利の高い国に集中することになり、これこそ貧しい国が益々貧しくなっている理由の一つです。コートジボワールは通貨自体を旧宗主国であるフランスがコントロールしているため、不当に高い通貨を押し付けて、利益の多くを吸い上げられている構造です。
カカオ豆にまつわる問題は、児童労働や人権問題などを含めればキリがないほどありますが、ガーナの識字率は6割程度であり、近年上昇したと言われても児童労働の問題と関係も深く、労働条件の改善とともに収入の安定化を考えなければなりません。さらにカカオを枯らす病気の蔓延が急速に起きており、2050年にカカオの木が絶滅するおそれがあると言われ、ある農業従事者が加盟する団体は、遺伝子組み換え作物(GMO)の推進が解決策であると発表しています。
さて、今回は前編後編にわたってカカオ豆から見る様々な問題を書いてきましたが、あらゆる問題が重なり合い、とても複雑な状況であることが理解いただけたと思います。苦渋の選択として遺伝子組み換え作物が解決策であると発表した生産者団体を単純に責めることもできません。そのような状況に陥ったのも先進国に大きな責任があります。私自身は一つの解決策として、生産国でカカオ豆の輸出だけではなく、現地でチョコレートの製造まで行い輸出できることが理想と考えています。皆さんもできるところから考えてみませんか?
■参考資料:
・農林水産省「カカオの持続可能性に関する調査」
・東洋経済オンライン「チョコレート危機の実態」
・現代ビジネス「チョコレート危機」
・BUSINESS INSIDER「チョコレートは2050年までになくなる? 」
new articles