ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、カカオ豆から見える世界の様々な問題についてお伝えします。
すべての社会問題を凝縮している作物
チョコレートの甘くない現実とは?
チョコレートの原料といえばカカオ豆ですが、最近ニュースで価格が高騰していることや気候変動の影響で、2050年にはほとんど収穫すらできなくなるという情報が流れています。しかし、この情報を深掘りしていくと単なる気候変動による影響だけではなく、様々な根深い社会問題が幾重にも重なっていることが分かります。今回は、カカオ豆に関わる問題の数々をできるだけ分かりやすく、また、その深層に何があるかを2回に分けてお伝えしたいと思います。
近年はカカオ豆の価格が高騰しており、特にこの1年で3倍にも跳ね上がっています。その主な原因としては、気候変動により主要生産地である西アフリカが、干ばつや洪水などの影響で生産量が極端に減ってしまったというのが、一般的にニュースで伝えられている内容です。しかし、このニュースをさらに深く調べていくと、驚くほどの数々の問題を抱えており、あまりにも表面的にしか状況が伝えられておらず、特に欧米や日本で暮らす私たちの生活とは、一切関連がない出来事のように伝わっています。
まず、世界中で流通しているカカオ豆の6割以上が、西アフリカのコートジボワールとガーナで栽培されています。ここで重要なのが、そもそもカカオ豆の原産地は南米のアマゾン川流域と言われており、アフリカ大陸の作物ではありませんでした。それが植民地時代にアフリカに持ち込まれ、ヨーロッパ向けのチョコレートの原料として栽培したのが始まりです。正確に言えば栽培させたというべきでしょう。
その主要生産地である西アフリカで、気候変動が深刻な影響を及ぼしているのは確かで、降雨パターンの変化や気温の上昇がカカオの生育環境に悪影響を与え、特に、乾燥期の延長や豪雨による土壌浸食が問題となっており、これらがカカオ農家にとって大きな打撃となり、結果として収穫量が減少しています。
ただ土壌の浸食という点では、さらに深刻な問題があります。WWFによると1980年には493万ヘクタールあったガーナの森林は、40年後の2020年には約半分の234万ヘクタールまで減少しており、カカオ農園の面積は1980年の約41万ヘクタールから2020年には約150万ヘクタールとおよそ3.7倍に増加しました。カカオ豆の栽培環境は、平均気温27度以上、年間降水量2千ミリ以上の赤道周辺の熱帯地域が生産に適しています。つまり高温多湿で適度に日陰がある環境を好むため、森林地帯を切り開いてカカオを植えることになります。実は、この森林が消失した原因には、カカオの栽培以外の深刻な理由がありますが、これは後編でお伝えしたいと思います。
カカオの栽培面積が広がり続ける理由には、もちろん他の作物を作るには栽培環境が厳しく、そもそも選択肢が少ないという理由もありますが、それ以上に外貨を稼ぐためにカカオを栽培して輸出するしかないという事情があります。問題なのは、自国のための農業ではなく、先進国向けの嗜好品である原料を作り続けるしかない経済の構造にあります。特に日本に輸入されるカカオ豆の80%はガーナからの輸入になりますが、現在ガーナ政府は債務不履行(デフォルト)状態に陥っています。これは、対外債務、つまり海外の金融機関などから借りた借金を返済できなくなっているということです。
経済がカカオ豆の輸出に大きく依存しているため、経済的な不安定性は、さらにカカオ豆の輸出に直接影響を与え、輸出コストの増加や供給量の減少を引き起こすことになります。債務不履行に陥った政府は、国際通貨基金(IMF)などから緊急の融資を受けることになり、さらに国内の経済を引き締める厳しい要求を受け入れることになるため、なおさら、外貨を得るための作物に依存せざる得なくなるという悪循環が起きています。
このように、価格の高騰というニュースの裏側には、深掘りすると様々な問題が絡み合っていることがあり、それほど単純な話ではないことが分かります。まず、外貨獲得のために自国のための農業や生活を犠牲にしても栽培しなければならないこと、そして何より価格が高騰してもカカオ豆を栽培する生産者の賃金にはほとんど影響がないことが、その問題の根の深さを物語っています。
さて、今回は、カカオ豆を通して世界で起きている社会の構造的な問題を描いています。表層的なニュースの情報だけでは見えてこない部分をあえて書いていますが、次回はさらに掘り下げてみたいと思います。ぜひお付き合いください。
■参考資料:
WWFジャパン 「ガーナのカカオ農園と森林破壊」
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