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農業

「自然栽培でお米を育てる理由」後編

2022.07.25

私たちにとってあまりにも身近で、その存在意義を深く考える機会の少ない「お米」という食べ物。
今回は食糧生産のみに留まらない田んぼや稲の役割、そして自然栽培を育てる意義を三回に分けて考えてみたいと思います。 

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「自然栽培でお米を育てる理由」後編

~自然栽培の可能性~

自然栽培は、作物のいのち、そして田畑の環境を尊重し、肥料や農薬を使用することなく農産物を生産する農のあり方です。「作物に本来備わってる力=競争力や自己防衛力といった、生きようとする本能」を存分に発揮できるよう土づくりに取り組んだ上で、作物にあった環境を整え、その生育を見届けます。自然栽培は、「生産者の感性を注げる自由な農業」ともいえます。

虫や病原菌は原因があるため発生し、崩れたバランスを元に戻す役割を果たします。循環の輪のなかで、善悪の区別も優劣もなくすべての存在に意味があります。自然栽培の田んぼには、ツバメ・白鳥・トンボ・ホタル・タニシ・ドジョウ・カエル・クモなど、様々な生きものが戻ってきます。そこには豊かな生態系が再現され、バランスのとれた生態系では稲が過度の病虫害に遭いにくくなります。

毎年育てる作物といえど、自然栽培生産者はその年の天候を予測しながら、種を蒔くタイミングやどんな温度帯で苗を育てるか、どの大きさの苗をいつ植えるかといった細かい部分に思慮を巡らせ作業を組み立てていきます。

肥料で生育をコントロールしない環境下では、稲は環境を敏感に写し取るため、生育観察や検証を深く重ねていく必要があります。繁茂する草にどう対応するかといった思索は尽きませんし、安定的な収穫を得られるまで年数を要します。しかし、そういったプロセスから自然の摂理に触れることができ、田畑のみならず生活にも応用できる学びへと昇華します。そこにかけがえのない価値があるのかもしれません。

こうして得られる自然栽培の平均収穫量は一反あたり約五・五俵が目安(一般栽培は約九俵)です。化学肥料が導入される前の明治時代初期の平均反収が約三俵だったことを考えると、決して少ないとは言い切れませんが、価格面ではどうしても割高になります。

私たち流通が扱うことで、輸送や保管、精米作業といった費用も加算されることになります。しかし、精米設備が無い・生産に集中したい・個別販売が困難、という生産者に代わり販売を行い、自然栽培米を普及することに強い意義を感じています。もちろん私たちも、企業としてコスト削減に努めていく上でのことです。

そして「食べものは安くて当たり前」になっている日本の食の価値観に強い疑問を呈し、自然栽培、そして農業の価値をフェアトレードで訴求し続けていきたいと思います。米の消費の下降は、力づくで止められるものではないかもしれません。しかしお米が余るのであれば、一般栽培よりも収穫量の少ない自然栽培で土地を広く活用し、先人が築き上げてきた農地を守ることができないでしょうか。量ではなく真価を追求する時が来ています。

循環という輪の中で多様な生物と共生し続けていくために、私たちは生産性の観点だけでなく広い視野で食糧生産に関わっていく必要があります。それは、食事をする全ての人がこの地球の耕作者であり、私たちの一挙手一投足そのものが明日を形づくるという意識を持つことにほかなりません。

一杯のご飯の選択で、守られる環境と未来があると信じて。

■参考資料
○「森と田んぼの危機」(朝日新聞社 佐藤  洋一郎  著)
○「稲にこだわる」(小学館  渡部    忠世  著)
○「日本のかんがいの特徴と最近の課題」(農林水産省)
○「農業・農村の働き(多面的機能)」(農林水産省)

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