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ものづくりのこと

マルカワみそ 河崎 宏さん「正直な味噌づくり」

2017.06.19

「そんなものできんし売れんし、あかん」
 農薬をつかわない原材料で、美味しい味噌をつくりたい。その考えをまわりに伝えたとき返ってきた返事だ。
 今でこそ、自然栽培やオーガニックという言葉がつかわれ、小売店でも目にするようになった。だが、当時は食の安全という部分に意識が向けられることは少なかった。

 福井県越前市。手しごとのまち。創業100年を誇る「マルカワみそ」は、この地で昔ながらの技術を用いて味噌を仕込んでいる。代表の河崎 宏さん、専務を務める長男の紘一郎さん、工場長である次男の紘徳さんの家族経営を軸に年間150トンの味噌を出荷している。
 宏さんが大学2年生のとき『恐るべき食品汚染(郡司 篤孝 著)』という本に出合った。そこに、食品に含まれる添加物が人の身体に影響を及ぼすことが書かれていた。そういう食品を作る人がいて、買う人がいる。それで経済が成り立っている事実……。
 「食べものってなんだろう」。その時生まれた疑問は、その後もずっと胸の中から消えることはなかった。お金をもうけるための単なる手段としてのものなのか、人の生命を全うするため、命の糧となるものなのか。そんな問いが心の中で沸き起こった。考えて悩み、誰でも安心して食べられる素晴らしい味噌をつくることが宏さんの夢になった。
 大学を卒業して福井に戻り、在学中に決めた考えをまわりに話すも父親と意見が食い違い、衝突した。あいつは頭がおかしい、オカルト的だと言う人もいた。だが、つくりたくないものをつくっても面白くない。そんな人生は嫌だ。自分がつくりたいものをつくろうと、意志を貫いた。
 周囲の反対を押し切るかたちで宏さんの味噌づくりが始まった。しかし、思うような原材料が手に入らない。それならば自分でやろうと、無農薬の米づくりを教えてくれる人を探した。JAに問い合わせたり、近所の農家にも聞いてみたが誰も知らない。それでもあきらめることはなかった。情報を集め、試行錯誤しながら米づくりを学ぶ。農業専門の会社を立ち上げ、味噌屋とかけもちで二足の草鞋を履く日々。過労で身体を壊し、倒れたこともあった。ゼロから挑んだ8年の間に、まわりも少しずつ変化していった。専業農家で無農薬の米づくりに取り組む人が増えてきたことをきっかけに、味噌づくりに専念することを決める。自ら田んぼを這いつくばり、腰がちぎれるような思いをしたことで、農家の気持ちが分かるようになってきた。そのため、農家の気持ちにはできるだけ応えようと決めた。作っていただいた作物は安定的に買い取ることを約束し、産地で直接取引をするやり方は現在も変わらない。
 そうして、材料が手に入るようになった。2003年には有機JAS認定工場の資格も取得。始めはいい顔をしなかった周りの人たちも、宏さんが必死に取り組む姿を見て、少しずつ認めるようになっていった。

 その頃、天然菌の味噌を探していた臨床環境医の三好元晴先生とナチュラル・ハーモニー代表の河名秀郎と出会い、麹菌の「自家採取」に60年ぶりに取り組むことになる。種菌メーカーから純粋培養された種菌を購入して仕込むのが一般的とされている中、果敢とも言えるチャレンジだったが、奇遇にも宏さんの父親、河崎 宇右衛門さん(会長)が自家採取による味噌を自家用に作っていた。趣味の領域だったため販売することはなかったが、近所でもおいしいと評判だったらしい。
 記憶を頼りに何とか麹菌を採取し、それを元に麹をつくった。
 大豆を一定期間置き、蔵に棲み付いている菌が付着するのを待つ。昔の人は色々試して豆でやると上手くいくことに辿り着いたのだろう。手間がかかり管理が難しいため、一度は日本から途絶えてしまった技術だ。

 試行錯誤を重ねた末にでき上がった天然麹菌に、味噌を仕込む力があるかどうか試すため甘酒をつくって様子をみることにした。すると、いつもの色味とは違う、うぐいす色の甘酒になり驚いたという。試しに味見をしてみると、昔どこかで味わったことがあるような懐かしい味がした。甘いだけでなく、複雑で奥深い味わい。それは、蔵に棲み付く色々な種類の菌が醸し生まれた味わいだった。そうして誕生した味噌は、後に「蔵の郷」としてナチュラル・ハーモニーで販売することになる。
 その後、自家採種を何度か繰り返すうちに分かったことがある。温度と湿度が重要だということ。自然栽培の大豆、しかも自然栽培歴が長いものの方が菌の付きがいい。現在はそれらをふまえ安定的に採取ができているが、年によって様子が違うこともあり気は抜けない。従業員さん6〜8人体制、2日間がかりで一個ずつ手作業で選別する。
 味噌は、大豆・麹・塩・地下水と共に木桶で仕込む。木桶をつかう理由は、蔵の些細な温度変化に対してもゆるやかに温度が伝わること。そして何より「おいしい味噌ができること」、その一言に尽きる。
 主力商品である味噌の他、麹や塩切り麹なども販売している。
 「いくら良い大豆や塩があっても、麹がなかったら味噌にはならない。味噌屋としては麹が命です。自分の商品というのはね、自分の子どもですわ。お米を蒸す時って赤ちゃんみたいだなって思んです。温度と湿度をちゃんと管理して見守ってあげるんです」。と語る紘徳さんは今年で30歳を迎える、2歳の男の子の父親だ。
 「麹は4日目で人間でいう18歳くらいまで成長します。で、僕は甘酒に就職しますとか、味噌に就職しますとかそれぞれの道へ旅だっていくんです」。麹がまるで生きもののように思えてくる。活き活きとした表情で、自分の息子のことを語るかのように話す。

 マルカワみそで働く従業員の8割は女性だ。子どもを持ち、家事や育児に忙しくしているお母さんも多い。食や家庭環境の乱れが心配される時代。「温かい食事で食卓を囲む大切さ」を感じて欲しいと2年前社屋を新設した際、食堂もつくった。野菜・穀物を中心としたメニューで、化学調味料は一切つかわない。
 みんなで一緒に合唱して「いただきます」から始まるお昼ごはん。同じ釜の飯を食う感覚に近いのだろう、どこか家族のような親しい雰囲気が食堂全体に漂っている。きっとそれがお互いの信頼感を生み、職場で働く安心感にも繋がっているのだろう。

 また、自社農園の運営も行っており、主に原材料用の大豆などの作物を育てている。それは「味噌づくりは土づくりから」という考えが念頭にあるためだ。だから農薬や化学肥料もつかわない。今の時期は、なす・とうもろこし・じゃがいも・トマトなどもつくっている。菜種も栽培しており、ちょうど収穫を終えて絞りに出している最中だった。野菜は社員食堂で出されるお料理に使われる他、売店でも販売している。

 自然界はうまくできている。宏さんの指針とも言える考えのひとつに「自然の法則」がある。夏はきゅうりやスイカなど身体を冷やすもの、冬は身体が温まるものが自然とできる。けれども、人間の進化は自然を克服していった歴史とも言える。技術の発展・科学の進歩。それによって受けた恩恵は量りしれないだろう。しかし……。「それは何のために、誰のためにするのか」。宏さんの頭には常にその問いが浮かんでいた。人が本当の意味で豊かに生活するためにはどうしたらいいのか。
 そのための手段として、宏さんは農薬や肥料をつかわず作物を育てる「自然栽培」と蔵に棲み付く菌を採取する「自家採種」に辿り着いた。ともに、これからの時代に求められる取り組みだと考えている。
 現在は、OEM(※)など一部を除き自社製品は全て自家採種した麹菌を使用している。原材料は有機に切り換え、今後は100%自然栽培で仕込むことを目指す。
 「わたしたちは、食の大事な部分を担ってると思うんやわ。多くの人に喜んでもらって貢献したい。役に立ちたい。どんどんやって、僕らが見せていったらええんや」。宏さんの言葉には裏表がない。きっと今後も、持ち前の行動力で目標に向かってトライし続けていくことだろう。

 「食べものってなんだろう」。40年前に生まれたひとつの問い。人を想うきもちが根底にあるからこそ、その取り組みは結果受け入れられ、広まってゆくのだろう。
 おいしい味噌をこの先もずっと食卓へ届けて欲しい。きっと今なら、そんなふうにエールを贈る人たちがたくさんいるに違いない。

「蔵の郷」米みそ
自然栽培大豆・米・天日湖塩、そして良質な地下水をもとに、木桶で1年弱天然醸造した天然麹菌の味噌。一度食べたら忘れられない深い味わいがあります。
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このコラムを書いた人

あま なつ子

販売促進・デザイン担当。生命力がいっぱい詰まった、おいしい自然栽培野菜・果物のとりこに。甘いもの好きですが、甘酸っぱい柑橘をおやつにするのがマイブームです。

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