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ライフジャーナル(大類久隆)

米不足の陰で静かに進行する危機

2025.08.01

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、失われつつある「食文化」の危機的状況、そして食の未来について考えてみたいと思います。


 

米不足の陰で静かに進行する危機

 
米だけではない食文化全体の問題
いま目を向けるべき課題とは?

「令和の米不足」という不名誉な名称を歴史に残すことになった、今回の米騒動ですが、8月以降に新米が出始めることで落ち着きを取り戻すことができるでしょうか。今回の騒動で明らかになったのは、価格高騰の要因でもある、2018年の廃止以降も事実上続けてきた減反政策の失敗の可能性と、本来災害や有事の際に放出するため、流通にスピードが求められるはずの備蓄米が、一向に店頭に並ばないという流通の構造的問題があらわになったことでした。この騒動ですが、国民からすると主食である米が、高騰しただけではなく、手に入らないのではと、初めて危機感を持った人も多かったのではないでしょうか。しかし、その陰で静かに、そして着実に進行している危機的状況があります。


進行する食文化の危機


近年、多くの食品事業者の廃業や業務縮小が相次いでいます。食品関係の会社の多くは中小企業が占めていますが、特に私たちのような会社と付き合いのある、こだわりのある事業者はさらに小規模なところが多く、急な廃業や業務縮小に迫られているのを目の当たりにしています。この数年のあいだに、長年お付き合いのあった、創業数百年という歴史ある醸造元の廃業や、こだわりの豆腐や豆乳を製造していたメーカー3社が相次いで廃業や営業譲渡、ご飯の加工メーカーが、機械の老朽化によりやむなく業務縮小になるなど、食文化の継承という意味でも危機的状況が続いていると思います。

例えば、かつて全国に約3,000カ所あった味噌製造工場は、半世紀以上減少傾向が続いています。醤油蔵に至っては、大正時代の約12,000社から2020年にはわずか1,108社にまで激減しており、そのうち麹から醸造する蔵は約300社にすぎません。さらに、市場の寡占は大手五社が売上の50%以上を占め、小さな蔵元には厳しい現実が続いています。市場全体の消費も、味噌や米同様にここ40年で約4割も落ち込んでいます。こうした数字は、単なる「事業者の減少」以上の意味を持っています。それは、長い時間をかけて積み上げてきた「味と文化」の消失であり、私たちが「選ぶ喜び」を失いつつあるという、多様性喪失の兆しでもあるのです。


事業者減少の背景

廃業や縮小の背景には、共通するいくつかの問題があります。原材料費やエネルギーコストの上昇、人手不足、後継者が見つからないという課題、また、設備や機械の老朽化に対して修理費用の捻出が難しいことや、醸造用の木桶などの道具を修理する職人自体がいなくなっていること。加えて、全国的な価格競争に巻き込まれ、良質な原料や製法を守り続けてきた事業者ほど、採算が合わなくなってきている現実があります。それ以外にも、原料自体が調達できないという理由もあります。気候変動や環境の変化により、例えば、天然昆布や良質な海苔、魚介類の一部が近年の極端な不漁により、加工用の原料として調達できず、製造が困難になるケースもあります。そのような状況でも、製造業者が努力して提供してきたのは、単なる「商品」ではありません。その土地の風土と共に育まれてきた味、長い年月をかけて受け継がれてきた技術、そして暮らしの中に根づいた「文化」そのものなのです。それは、誰かが代替品を作れば済むという話ではありません。


いま目を向けるべきこと

消費者である私たちにとっても、この流れは決して他人事ではありません。ふと気がつくと、かつて当たり前に買えた商品がなくなっていたり、長年慣れ親しんだ味の商品が、次の年には姿を消していたりする。そのように、少しずつ「選び購入する自由」が奪われていると言えます。今、私たちに問われているのは、「私たちはどのような社会を望むのか」、「食とは何か」という価値観そのものです。価格や効率ばかりを優先してきた時代の延長に、持続可能な食文化は存在できるのでしょうか?日本全国どこで購入しても同じような味の画一的で安価な商品ばかりが並ぶ世界は、結果的に食文化を否定する流れにもつながりかねません。

もちろん、すべての人が毎日こだわりの食材を選ぶことは現実的ではないかもしれません。ただ、例えば週に一度、月に一度でも、思いのこもった作り手の製品を選ぶことで、その積み重ねが、彼らを支える大きな力になります。安さだけでなく、誰がどのように作っているのか、その思いや背景に目を向けて選ぶという行動は、未来の食の風景を変えていくための意思表示でもあります。日本は古くから稲作が根付いてきたことで、お米という主食とともに、副食である味噌や漬け物などの発酵食品や各地方の郷土料理にみる、多様性に富んだ繊細な和食文化が発達しました。今回の米不足のように目に見える「危機」があったからこそ、改めて「見えにくい危機」にも目を向けたいと考えています。私たち一人ひとりが、食文化を支える担い手として、小さくても確かな選択をしていくことが、今こそ求められています。





■参考資料:
・みそ製造業の構造変化とその要因 大矢祐治
・ユーメン醤油株式会社HP
・伝統産業(醤油)の製品と経営の現状と課題 長谷川弓子
・100年企業研究委員会 弓削多醤油インタビュー記事


文:類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?

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