ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回も、価値観や生き方のヒントとなるコミュニティをご紹介したいと思います。
世界最大のエコビレッジの仕組み
宗教や信条を超えたコミュニティ
これから価値観の大きな転換が起こる可能性を何度かお伝えしてきましたが、
今回も価値観や生き方のヒントとなるコミュニティを紹介したいと思います。
インド南部、タミル・ナードゥ州に位置する「オーロヴィル」は、面積約20平方キロメートルという広大な土地の中に、居住エリアだけでなく、遺跡、森林、湖、教育施設などあらゆる環境が揃い、現時点で住民の数は約3千人という、世界でも最大級のコミュニティです。住民の構成は実に多国籍で、約60以上の国から集まった人々がここで生活しています。特にインド、フランス、ドイツ、アメリカなどの国からの参加者が多く、国際的な共同体として多様な文化的背景を持つ人々が共に暮らしています。
「オーロヴィル」は、思想的基盤を築いたインドの哲学者・思想家であるスリ・オーロビンドと精神的指導者であるミラ・アルファサによって1968年に創設されました。「人類の調和」と「人類にとって普遍的な町」を理想として掲げるエコビレッジであり、環境に配慮した持続可能な生活を実現するための先進的な実験都市として世界中から注目されています。また「ギフトエコノミー(贈与経済)」という概念を実践しており、貨幣経済に代わる新しい経済システムとして提案されています。この経済モデルでは、人々は無償で贈り物や労働、資源を提供し合い、利益を目的とせず、共同体全体の利益を追求することになります。
オーロヴィルでは、この贈与経済を通じて、協力や信頼、思いやりを基盤にした社会構築が試みられてきました。
従来の市場経済や貨幣経済とは異なり、すべての参加者が「与える」ことを前提としています。自己利益の追求ではなく、他者への貢献を優先させる経済システムです。その根底には、「無償の奉仕」によって人々が本来の人間性を取り戻し、協力的な社会を築くという理念があります。お金に縛られない社会は、個々の人間が本来持っている能力や創造力を最大限に発揮できる環境を生み出すと考えられています。オーロヴィルの住民たちは、必ず職業を持つことを求められ、農業や手工芸、建築、教育といった多様な分野で活動して、その成果物はコミュニティ内で共有されます。住民はそれぞれが持っている才能を自由に提供し合い、労働に対する直接的な報酬は発生しません。その代わり、住民はコミュニティの中で必要なものを共有し合うことで生活を営んでいます。
その他の主な活動としては、環境保全と持続可能なコミュニティとして、再生可能エネルギー(特に太陽光発電)の使用が盛んで、エネルギーの自給自足を目指しています。また、廃棄物管理、持続可能な農業、自然建築技術など、エコロジカルな取り組みが多く行われています。さらに、多くの教育施設や研究機関があり、住民や訪問者に対して幅広い学びの機会を提供しています。自然農法、ヨガ、瞑想、建築など多岐にわたるテーマが研究され、セミナーも開催されています。閉鎖的にならず、宗教や信条を超えた国際的にもオープンなコミュニティを目指しており、異なる国々の文化や伝統を紹介する「国際ゾーン」があり、各国のパビリオンや教育施設が設けられていることが、このコミュニティを象徴していると言えます。
とてもしっかりした思想の基に運営されているオーロヴィルですが、同時に課題を抱えているのも事実です。例えば、住民がオーロヴィル外で必要とする医療や教育、その他のサービスは、依然として金銭が必要です。オーロヴィル内で自己完結するサービスや物資の供給が限られているため、住民は一部でお金を使わざるを得ない状況があります。また、外部からの資金や援助がないと専門技術や労働力に対応できないことがあります。さらに人口の増加にともない、外部からの経済的支援を前提とした生活を送る人も増えているとの指摘もあり、理想と現実の間にギャップが生じているのも事実です。
しかし、様々な課題を抱えながらも、理念に基づいた運営を50年以上続けていることは注目に値するとされ、世界最大のエコビレッジとしてインド政府からも支援を受けています。物質的な豊かさよりも精神的な成長や相互奉仕を重視した運営の理念は、物質的な豊かさと経済効率をすべてと考える現代社会へ常に疑問を投げかけ、新しい社会モデルの実現に向けて挑戦を続けている好例と言えるでしょう。
■参考資料:
オーロヴィルインターナショナルHP
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