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ライフジャーナル(大類久隆)

いま分断を越えるとき【後編】  

2023.01.03

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、分断された世の中で、デジタル技術によって起こるもう一つの潮流について考えてみました。

> 前編はこちら 「いま分断を越えるとき」【前編】


いま分断を越えるとき【後編】

新しい価値観と多様性を認め合うことが鍵になる
デジタル技術によって起こるもう一つの潮流

デジタル技術も使い様

前編で述べたように、地域に根ざした生き方を選択しながら、インターネットを駆使して情報を発信するという、ある意味両極の要素を上手に生活の中に取り入れている人たちがいます。彼等はけっして社会に背を向けて生きるのではなく、むしろ地域の利点を活かし新しい価値観と生き方を積極的に発信することで、ローカリズムを標榜し社会を変えていこうと考えているのです。

昨年の年始の記事でお伝えしたように、政府主導のデジタル化への弊害は、便利さと引き換えに大きな代償を払う可能性があります。ただし、技術そのものが悪い訳ではなく、その技術をどのような目的で使うかが大切だと思っています。台湾の天才と言われるデジタル担当大臣のオードリー・タン氏は、「デジタルテクノロジーは性悪説に基づいて使用する必要がある」や「社会のデジタル化は民主主義を深めるが、決して権力を集中してはならない」とまさに本質を突いた発言をしています。やはり国民にとって役に立つか立たないかは、デジタル技術をどのような目的と意図で運用するかが鍵になると思います。

若者が作る新たな文化

私たちの自然栽培を広める取り組みでも、近年新たに就農した人や自然栽培に切り替える人たちが少なくありません。日本の農業人口が減る一方の中で、とても嬉しい話題です。そして、そこでも同じようにSNSやYouTubeを駆使して情報発信を行っており、自身の取り組みの紹介や地域の情報とともにコミュニティの呼び掛けを積極的に行っています。もちろん、社会全体からすれば小さな取り組みや変化かもしれませんが、農業に限らず、あらゆる情報やデジタル技術を上手く取り入れて繋げていこうという方法は、最初は目立たなくとも、ある特異点を超えると一気に大きな流れになる可能性を秘めています。さらに同じような価値観や生き方を目指す人たちが、情報交換や支援の場としてコミュニティを形作ることの意味は大きいでしょう。

本来は農業も食文化も、また住環境など生活に関わることは、すべて土地に根ざしたものであることが理想です。しかし現代は、多くの人々が生活する場と職場に距離があり、食べるものは原料の生産地や作り手の顔が見えない輸入された食材を購入します。住んでいる地元では、地域の人間関係は希薄であり、あまり人との繋がりを感じることはありません。その方が、人間関係の煩わしさがなくて良いという意見もあるでしょう。ただ現代のあまりにも希薄になり過ぎてしまった人間関係の中で、孤立した家庭や個人が増えてしまったことの弊害も大きいと感じます。

本来、社会とは人と地域ごとの繋がりがあって成立するものです。それぞれの地域に根ざした農業や工業、取り巻く様々な産業があり、あらゆる人々の生活の営みが中心にあります。さらに同じ価値観で繋がるコミュニティがあることで、やがてその土地ごとの風土に合った文化が育ちます。もちろん文化と呼ばれるにはそれなりの時間が必要になるでしょうが、情報発信のスピードが早い現代では、多種多様な交流が生まれることで熟成の度合いも高まることでしょう。

また、もう一つ大切な条件として地域内での経済的な循環ができていることです。お金がその地域の中でめぐることがないと、すべての取り組みが立ち行かないことになります。そのため最近では盛んに地域通貨を電子マネーで運用するところが増えています。地域通貨はその地域内だけで流通するように設計された通貨ですが、それを電子マネーで行うことで利用者にも使いやすく運用元の管理もしやすくなっています。

いずれ地域ごとのコミュニティが盛んになれば、全国各地のコミュニティが繋がり始めるでしょう。そこにデジタル技術が上手く加わることで、さらに情報は拡散して支援の輪も広まることになり、きっと将来的には、国境や人種という枠組みさえ超えた広がりになるかもしれません。例えば、あと10年経つとデジタルネイティブと言われる世代の中でも特に若いZ世代(10代~20代前半)と呼ばれる人たちが、社会を構成する主要な世代になるでしょう。そうなったとき明らかに古い価値観や固定観念は、徐々に見直され消えていくことになるのではと思います。

最後に

世界では、いまだに終わりの見えない戦争や紛争が続いています。民族や宗教の違い、また経済格差によっても人々が分断されています。もはや古い政治体制やイデオロギーでは解決ができないのかもしれません。しかし、そんな世の中でも地に足をつけて生きることを選択する人々がいます。自然との繋がりを忘れず、自分の身近にある環境に気を配り、その土地とともに目の前の生活を大切に生きること。そして、コミュニティを形成して同じ価値観の人々が繋がることで、理想の社会を形作ることを目指しています。

今回の記事では、いま社会で起きている出来事から近い将来に起こるであろう可能性を描いています。もちろんこれらは一つの視点に過ぎず、すべてではないかもしれません。しかし、少しでも多くの人が、新たな価値観で繋がり、多様性を認め合うことができれば、世界は必ず変わっていくでしょう。そんな明るい未来を夢見つつ、皆さまにとっても幸せな一年になることを心よりお祈り申し上げます。

『私が森に行って暮らそうと心に決めたのは、暮らしを作るもとの事実と真正面から向き合いたいと心から望んだからでした。生きるのに大切な事実だけに目を向け、死ぬ時に、実は本当は生きていなかったと知ることのないように、暮らしが私にもたらすものからしっかり学び取りたかったのです。私は、暮らしとはいえない暮らしを生きたいとは思いません。私は、今を生きたいのです。』

――ヘンリー・デイヴィッド・ソロー著
『ウォールデン 森の生活』(1854)より

> 前編はこちら 「いま分断を越えるとき」【前編】


大類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?


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