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ライフジャーナル(大類久隆)

SDGsとの付き合い方【後編】

2022.07.05

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、SDGsについて考えていきます。

> 前編はこちら 「SDGsとの付き合い方」【前編】


SDGsとの付き合い方【後編】

環境ロンダリング?に陥らないために、社会問題の本質を見極める

前編ではSDGsの概要とそれを取り巻く状況、そして私自身が違和感を感じる部分について触れましたが、今回はもう少し踏み込んで書いてみましょう。

前回インパクト投資という投資方法について書きましたが、その投資を専門としている金融機関や投資財団が多く存在します。特に影響力の大きい「ロックフェラー財団」や「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」など、皆さんも良く知る団体が挙げられます。

この投資財団が巨額の資金を元に将来的に社会や環境に好影響を及ぼすであろう事業や研究に多額の資金提供を行っています。常識的に考えれば、これから社会の役に立つ事業に資金を出資することは悪い事ではないのですが、私が違和感と共に心配する点は、これだけ影響力のある団体が、投資するかしないかの判断一つで企業の方向性を決定してしまう点です。また同じ業界に同様の出資を行っていけば、その業界全体に影響力を及ぼすことになり、将来的にシェアを独占する可能性もあります。また巨額の出資をする以上、それが無条件で行われることはなく何かしらの条件や要求があるはずです。

つまり投資財団の意向で、間接的に未来の生活環境や消費者の動向を簡単に操作出来てしまう事が考えられます。前編でも説明しましたが、将来的に温暖化対策として動物性食品を減らし、植物性の代替肉や培養肉の需要を必要以上に作り出すことも出来ます。「考えすぎでは?」という意見もあると思いますが、CO2の排出権取引という例があります。これは国家や企業があらかじめ決められた排出枠を超えそうな場合に、他の企業から排出枠を買い取る事が出来る制度です。一見すると便利な制度ですが、この取り引き自体が投機ビジネス化しており、中には多額の利益を出す企業もあります。何より本来の目的はCO2の削減であったものが、手段と入れ替わっています。このように、環境保全のためと始まった試みが、いつの間にか経済活動として正当化され、巨額ビジネスとして成り立ってしまう事があるのです。

さらに例を挙げると、CO2削減に関連して欧米を中心に各国がガソリン車の廃止を打ち出しており、各国の自動車メーカーが電気自動車の開発を競っています。

電気自動車の性能の要になるのはリチウムイオンバッテリーですが、その鍵を握るのが使用される「リチウム」という希少金属です。現在各メーカーがリチウムの採掘権などの争奪戦を繰り広げているわけですが、問題なのはリチウムを採掘出来るのがごく限られた国である事。そして、その精製段階で高温焼成が必要なため、石炭や重油を燃やし大量の硫酸で溶かす必要があることから、採掘や精製する地域の環境負荷が極めて高く、健康被害も含めた悪影響が危惧されています。

また電気自動車は走行中のCO2削減部分のみに焦点が当たっているため、前述した原料の調達から製造、そして販売から廃棄されるまでのすべてのライフサイクルを計測すると、原子力発電の電気を使用する前提で10万~12万キロ以上(国や条件にもよって変動)を走行しないとガソリン車よりCO2排出量が多い事が分かっています。しかも原発の少ない国においては走行距離に関係なく排出量が増大します。

つまり、先進国内で電気自動車を走らせている範囲では、クリーンでCO2の排出がないというだけの話で、原料の調達から製造組み立てまでの工程を行っている多くの途上国の犠牲の上に成り立っている事になります。しかも大手電気自動車メーカーは、その国々の企業へ排出権を売るため多額の利益を得る構造になっています。

確かに社会全体が経済活動で成り立っている以上、すべてを否定出来ませんし、電気自動車に将来性がまったくないわけではありません。ただ国の政策として強力にCO2削減を進めているなかで、限られた資源と代替技術がないまま大企業主導での急激な電気自動車への転換は、その代償があまりにも大きい。もっと慎重に取り組むべきなのです。

今挙げた例は、SDGsの取り組み全体からすれば1つの側面に過ぎません。しかしもう一度SDGsの17の目標のいくつかを見て下さい。

①貧困をなくそう
②飢餓をゼロに
③すべての人に健康と福祉を
⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに
⑩人や国の不平等をなくそう
⑫つくる責任つかう責任

この目標と照らし合わせて違和感を感じる方も多いのではないでしょうか。

業界全体が一方向に動き始めると、あらゆるメディアを通して特定の取り組みや名称が消費者の目に触れる機会が増えます。やがてそれがプロパガンダ化して結果的に大企業の取り組みすべてが社会的に正当化される恐れがあります。

経済活動によって環境の改善や社会の変革をしようという場合、お金は社会を巡っても最終的に資本の大きいところに戻って来るという原理があります。少々社会の意識が変わろうともこのセオリーは変わらないでしょう。むしろこの仕組みこそが、社会問題の本質なのですから。

それだけに、経済活動というのは社会問題の解決において諸刃の剣であるという事を理解する必要があります。本当の意味でSDGsを成功させるには、国民すべてが消費者としての責任を自覚すること。そして、正しい情報と適切な判断によって企業活動にもしっかりと目を光らせることが大切でしょう。

> 前編はこちら 「SDGsとの付き合い方」【前編】


【参考資料】
『ライフサイクルアセスメントを用いたガソリン車とEV車のCO2排出量比較』
マツダ株式会社・工学院大学 共同論文より


大類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?


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