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ライフジャーナル(大類久隆)

クリーンフードが世界を救う?【後編】

2022.07.15

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、畜産と食肉から見た地球の未来について2回にわけて考えていきます。

> 前編はこちら 「クリーンフードが地球を救う?」【前編】


クリーンフードが世界を救う?【後編】

バイオテクノロジーは環境破壊を止められるか
自然と安全の意味が分裂していく未来

近年米国では動物性たんぱく質や脂肪の過剰摂取による健康問題が深刻な状態であり、より健康志向の強い食材が受け入れられています。すでに大手ハンバーガーチェーンで採用された、豆を主原料とした植物性たんぱく質主体のフェイクミートが人気になっています。日本でも大豆たんぱくなどを主体にしたベジミートの人気がありますが、フェイクミートは、何も知らされずに食べると本物の肉との違いに気が付かないほどの完成度になっているようです。しかも添加物をほとんど使用していないことが特徴です。

一方、細胞を培養して肉を製造する培養肉技術ですが、これは動物性食品になります。ただし遺伝子組み換えでもなくゲノム編集技術でもなく、単純に細胞を培養する技術で成り立っています。クローンなのでは、と思われるかも知れませんが、これにも当てはまりません。この技術の特徴は製品になるまで動物を使用することが一切ない事です。遺伝子組み換えやゲノム編集技術の場合は、あくまでも動物の遺伝子を操作して人間にとって都合のよい特徴を備えた家畜を作り出すことですが、培養肉はその工程がなく純粋に試験管の中で培養するだけです。この培養肉を研究するメーカーではこの肉を「クリーンミート」と名付けて印象づけを図っています。

米国でフェイクミートやクリーンミートが注目される背景には、健康面以外に環境問題、感染症問題、動物福祉の面があります。前半で書いた通り、畜産業が環境のあらゆる面で悪影響を及ぼしていることや新型コロナウイルスのような新たな感染症が家畜から広まるのではないかという恐れなどから肉食を見直そうという議論が高まっています。また培養肉のメーカーが「クリーンミート」と名付けた理由には、衛生的であるという意味が含まれます。クリーンミートはほぼ無菌状態で製造できるのですが、既存の畜産物は抗生物質を多用したため薬剤耐性菌に汚染される恐れや食中毒による危険があります。実際に米国では食中毒患者が年間4800万人にのぼり、その最大の原因が鶏と七面鳥であると言われるほど、食肉による食中毒が大きな問題になっています。

さて、この無菌状態というキーワードですが、今回の新型コロナウイルスの影響もあって今後社会のあらゆる場面で聞くことになるでしょう。それは、社会全体が細菌やウイルスに対してより過敏になることで極端な抗菌、殺菌社会に向かうと予想されるからです。もちろん常識的な範囲での衛生観念は大切ですが、新型コロナウイルスによる影響は世界規模におよび今まで当たり前と思っていた衛生観念を根底から覆すことになりそうです。つまり目に見えない微生物に対する人類の恐怖心が、隔離的な生活習慣や社会を推し進めてしまうということです。

地球上には多くの微生物が存在し生態系の重要な役割を担っています。人間にも多くの常在菌が棲みつき、そのバランスによって人間も生かされています。しかし、これから未来に起こることは、人類にとって「自然」と「安全」が、乖離する社会になっていくのではないかと考えています。

一般的には自然に近いことが安全であるというイメージだったものが、食中毒や薬剤耐性菌の問題が広がるごとに食品は、一様に不衛生なものとして捉えられてしまい食品の生産現場から徹底した無菌状態の環境を作り出すことが「安全」の基準であると認識されるかもしれません。実際に野菜を外界から隔離した状態で水と液肥とLED照明で生産する工場野菜が現実化しています。「栽培は無菌状態に近く農薬などの危険性もない衛生的な野菜」という触れ込みになるのでしょう。すでに多くの食品加工場では徹底した衛生管理が求められ、殺菌・消毒は当たり前になっています。未来ではすべての工程が自動化され、この先人間が食品に触れることがなくなるかも知れません。

また、隔離的というのは食品に限ったことではありません。衣類など肌に直接触れるような商品も抗菌加工され、ロボット化された工場でほとんど人の手に触れることもなく生産されています。いずれすべてが隔離的であることが求められ学校や会社、家庭内でも必要以上に人との接触を避ける空間が物理的に設けられ、ほとんどの時間そこで過ごすことになるかも知れません。

これらが、私が見ている安全性が極端に優先された未来の姿です。もちろん最初に言った通り常識的な範囲の衛生観念は大切だと思いますが、それが明らかに過剰になることで家族同士の接触もなくなっていく未来には危険性を感じます。
そこで改めて自然であることとは何かを問いたいと思います。

地球上は微生物で覆われた惑星です。いわば人間はその微生物のプールの中で生活しているようなもの。なので最終的には共存するしか存続する道はないと思っています。しかし近代になって人間は化学物質により自然界をコントロールしようとしたことで、微生物が突然変異し制御困難な状況を自ら作り出しています。畜産業の問題にしても人間の経済的な都合でコントロールしてきただけで動物に一切の罪はありません。これを機に自然と向き合うとはどういう事かを考え直す必要があります。
隔離的な生活習慣で一番失われるのは人との触れ合いとそこで育まれる心です。安全性を優先することで心まで希薄化しないで欲しいと願っています。

> 前編はこちら 「クリーンフードが地球を救う?」【前編】


【参考資料】
『CLEAN MEAT』 ポール・シャビロ著 日経


文:類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?

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