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「発酵食品はみな自然の微生物によって発酵しているのだから、とても健康に良いものだ。」

というのが一般的な発酵食品に対するイメージだと思います。私たちもかつては、そう信じて商品を販売していましたが、あることがきっかけで、そのイメージが完全に覆りました。

20年ほど前にホスメッククリニック医院長の三好基晴先生から、「販売している味噌や醤油に使用している菌は自然なものですか?」という問い合わせをきっかけに ”天然菌” の探求が始まりました。当初は疑いも持たずに販売していた発酵食品でしたが、製造元に問い合わせると、「種菌メーカーから仕入れているが、詳細は分からない」という回答でした。そこから、詳しく調べ始めると様々なことが見えてきました。

日本を代表する発酵醸造食品と言えば、味噌、醤油、酒、酢などがありますが、すべてに共通する重要な菌が「麹菌」です。この麹菌がないとこれらの発酵食品を製造することはできません。麹菌は日本の「国菌」と言われるほど日本固有の重要な菌なのですが、この麹菌をどのように製造しているかは、詳細は種菌メーカーからほとんど公表されることがなく、いずれにせよ自然に採取された菌をそのまま使用することはありません。

麹菌の採取方法には、自然環境の中のある条件下で採取する場合と、温度や湿度などを厳密に管理された施設内の環境で穀物などに付着させる場合とありますが、どちらの方法でも純粋な麹菌100%を採取できることはありません。必ず複数の似通った菌が複合的に存在することになります。そのため、それ以降は、人為的に目的とする麹菌を取り出すために「純粋培養」を行うことになります。

近代の純粋培養法が定着するまでは、麹菌を採取するときに穀物などに付着した菌に、麹菌がアルカリ性に強い性質を利用して、灰をまぶして目的以外の菌を排除する方法を行っていました。しかし現代では、顕微鏡により確実に目的とする麹菌だけを取り出して、それをさらに人工培養で純粋化する行程を繰り返すことで、最終的に目的別の100%純粋な麹菌を取り出します。確かにこれにより味噌なら味噌用の麹菌、醤油なら醤油用の麹菌、酒なら清酒用の麹菌と確実に醸造することのできる麹菌を得ることができます。

ところが現代ではこの純粋培養技術がより進化しており、麹菌に限らず発酵に関わる菌は多数ありますが、その多くが化学的な遺伝子操作をすることで、ある目的に特化した菌を作り出しています。例えば納豆菌などはよく聞く事のある発酵菌の名称ですが、納豆菌ではある特定の栄養価を高めたり、臭いを軽減したり、粘りを強くするなど、遺伝子を突然変異させることでこれを可能にしています。突然変異させる方法としては、放射線や紫外線を照射したり、薬品によって遺伝子の一部を破壊することで、特性を変える方法です。

このように発酵食品の世界では、バイオテクノロジーの最先端技術が活用されています。確かにこれらの技術進歩により、確実に目的の味や特性をもった食品ができています。もちろん微生物の遺伝子を改変する行為は食品分野に限らず医療の分野などでも応用されており、その技術自体をすべて否定するわけではないのですが、食品に限って言えば、あまりにも本来の発酵からかけ離れてしまったものが少なくありません。特に最近では、遺伝子組み換え技術やゲノム編集技術が進み、今後は発酵に関わる微生物にも応用されることは間違いないでしょう。

発酵醸造の話に戻ると、江戸時代までは日本酒の製造過程で醸造に失敗して、蔵自体が潰れてしまったことがありました。そのため歴史上、蔵内に麹菌や醸造に必要な菌以外の微生物が混入することをとても恐れます。それが現代でも引き継がれており、日本酒の醸造施設では細心の注意を払い徹底した殺菌や除菌を行いながら、純粋培養菌を使用することで失敗することなく、毎回安定して同じ味の日本酒を造ることができています。

そこでナチュラル・ハーモニーでは、ひとつの仮説を立てました。それは、発酵が上手くいかなくなった背景には、菌の純粋性や環境の問題だけではなく、原料の質が変わってしまったことで起きているのではないか?ということです。つまり米の栽培に肥料や農薬を多用してきたことで、原料自体が発酵し難くなってしまったのではないかということです。化学的な純粋培養菌に頼らずとも原料が自然栽培であれば、発酵が上手くいくのではないかという仮説です。

その仮説に従い、福井県のマルカワみそで天然の蔵付き麹菌の自家採取が成功したことで、味噌の醸造が始まり、次にその麹菌を醤油の醸造にも使用できたことで、天然麹菌の可能性の幅が広がりました。

そして、その後日本酒の醸造でその仮説を証明することができました。始めて天然菌の麹菌によって日本酒を醸造しようというときに予め原料との相性を調べたときでした。自然栽培米と天然菌、自然栽培米と純粋培養菌、慣行農法米と純粋培養菌という組み合わせそれぞれの力価(麹菌が米のデンプンを分解する力を表す数値)を比較したところ、自然栽培米と天然菌の組み合わせが最も力価が高く適しているということが分かりました。これは正に仮説通りだったのですが、特質すべき点はここで使用した天然麹菌は味噌蔵で採取した菌だったということです。

本来、醸造の世界の常識では前述した通り、味噌には味噌用の、日本酒には清酒用の純粋培養された、その醸造に最も力を発揮する麹菌のみの単一菌で構成されているため、味噌蔵で採取された麹菌が日本酒の醸造に使うなどあり得ないことでした。しかし、天然麹菌と自然栽培米の組み合わせでは可能であったということです。おそらく天然麹菌には最初から数種類の麹菌が複合的に存在しているため、日本酒を醸造するために必要な条件である、米のデンプンを分解して糖化するという条件にも適応できていたということでしょう。

このように、現代の純粋培養技術によって、どのような原料を使用しても安定した醸造が可能になりましたが、全国的な傾向として味や特徴に差がなくなり、画一的になってしまったとは言えないでしょうか?そもそも発酵食品は、造られる地域ごとで菌や原料を調達しており、これにより地域ごとの個性ある理想的な発酵食品がありました。

ナチュラル・ハーモニーでは、発酵食品もできる限り自然に近い条件で採取した天然菌を使用して、自然栽培の原料と合せて、本来の理想的な発酵食品の復活を願いながら、地域ごとの個性溢れる発酵食品の魅力を伝えていきたいと思います。

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