私たちにとってあまりにも身近で、その存在意義を深く考える機会の少ない「お米」という食べ物。
今回は食糧生産のみに留まらない田んぼや稲の役割、そして自然栽培を育てる意義を三回に分けて考えてみたいと思います。
「自然栽培でお米を育てる理由」中編
~肥料や農薬の意味~
化学肥料や農薬が田畑に使われるようになると、農業によって環境汚染や健康被害が引き起こされるようになりました。現代農業において、高温多湿の日本の田畑は病虫害が発生しやすく、耕地面積あたりの農薬使用量は2017年の統計で世界第5位にあります。
また、若い稲穂の糖分を吸うカメムシの防除に、世界的に禁止されているネオニコチノイド系殺虫剤が効果的とされ、この農薬が主に使用されているのも水田です。
農薬は食料生産を安定させる上で欠くことのできない技術ですが、大切なことは「農薬に頼らなくても生きられる作物」と「頼らなくてはならない作物」があって、その違いは何か、ということです。
「肥料によってバランスをくずした環境で育てられる作物に、虫や病原菌が集まってくる。」これは肥料を使わない農業をする方々の現場での体感です。稲のイモチ病を例にあげると、イモチ病は地力のある土壌、または肥料の多い環境で、日照が少なく湿度が高いときに発生しやすい病気です。そもそも自然栽培では肥料を使用しないので、同じ環境下なら肥料を与えるよりも極端に発生は少なくなります。実際、自然栽培の水田では、多少イモチ病の発生があっても大きな被害になることはほとんどありません。こうしてみると、一般の農業において肥料により作物の病気を増加し、その対処に農薬使用量を増やしてしまった側面があるといえます。農薬を使用し続けると、虫や病原菌が耐性を持ち、更に効果の強い農業が散布されるという悪循環にも陥ります。
肥料が原因となる環境汚染も問題です。肥料に含まれる窒素成分は、土壌で微生物の働きによって硝酸性窒素に変化します。作物に吸収されなかった硝酸性窒素は水に溶けやすく、地下水や川を汚染します。また、硝酸性窒素が川を経て湖や湾内に流れ込むと、硝酸濃度が高くなってプランクトンが増え、そのプランクトンが多量の酸素を使うため、水生生物が死んでしまうこともあります。
肥料はお米の食味にも作用します。お米のおいしさは、品種・デンプンの組成・田んぼの生物群・土壌の条件・気温・乾燥調製や貯蔵方法などいろいろな条件が相まって生まれます。しかし栄養価を目的とした人為的な肥料は、稲の育つリズムをどうしても崩し、美味しさにも影響してしまうと私たちは懸念しています。タンパク質の量は、品種・施肥・気象・土壌により変化します。とくに肥料が多いとタンパク質が増えるので、お米の味は落ちてしまいます。お米の中のタンパク質は水を通さないため吸収が悪くなり、ごはんがふっくらと炊けません。逆にタンパク質の少ないお米は吸収が良いため、ふっくらとした炊き上がりで美味しいごはんになるといわれます。自然栽培のお米は、タンパク質が過剰になりにくい条件で育ちます。美味しいと評判になるひとつの理由かもしれません。
日本の狭い耕地での短期間・多収に繋がる肥料は、人口増加に伴う食糧供給には欠かせなかった存在です。ただ、現代における肥料の役割は、市場価値に合わせた生産効率を上げる意味合いが強いのも事実です。明日を育む健全な土壌や水と引き換えに、今日食べていくための収穫を得ているともいえます。自然栽培という農業を守り育てていくことで、未来からの収穫のない農業生産を目指していければと思います。
後編に続く
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