ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、畜産と食肉から見た地球の未来について2回にわけて考えていきます。
バイオテクノロジーは環境破壊を止められるか
自然と安全の意味が分裂していく未来
このたび、新型コロナウイルスが国境を越えて広がったことから、あらゆる面で予想以上の影響が出ました。かつて猛威を振るったSARSやMARSやO157も当初は新型と言われたウイルスまたは細菌の感染症ですが、いずれも共通していたのは動物を媒介として人間に感染したという事です。今回の新型コロナウイルスも動物から人に感染した可能性が高いと言われていますが、発生源が野生動物であるという説ももちろん否定できません。個人的には、家畜を媒体として広がったため事態が悪化したという可能性を考えています。
以前のコラムでもお伝えした通り、例えば日本で使用されている抗生物質(抗菌剤)の60%以上は家畜に投与されています。これは、疾病予防ではなくあくまでも成長促進のためのものです。EU加盟国では、成長促進としての抗生物質の投与は禁止されていますが、中国、米国、日本を含めたアジアや南米など新興国を中心に家畜への日常的な投与が続いており、その畜産の行われている地域の使用量に比例して薬剤耐性菌が多く発生しています。
薬剤耐性菌とは、抗生物質に曝されることで突然変異が起こり薬剤耐性を持った菌のことです。近年新たな薬剤耐性菌が発生するたびに新規の抗生物質を開発して投入するということが続いていましたが、過去最強と言われたバンコマイシンという抗生物質にも耐性菌が現れ、それ以降は開発が低迷してすでに打つ手がなくなっているのが現状です。つまりこれ以上薬剤耐性菌が増加して広がった場合に今までのように安易に抗生物質で制御することが極めて困難になると言うことです。
以前から畜産業が発端となった感染症によるパンデミックが予測されていましたが、今回の新型コロナウイルスの発生も決して無関係ではないと思います。
国際連合と世界保健機関(WHO)の発表によると、2014年の時点で薬剤耐性菌に起因する年間死亡者数は少なく見積もっても約70万人、このまま何の対策も講じられない場合は、2050年までに毎年1千万人が薬剤耐性菌によって死亡するような破滅的ダメージが出るだろうと予測されています。これは新型コロナウイルスより現実的な脅威と言えるかも知れません。
しかし、前述した国では使用量の多少の減少はあるものの根本的な解決には程遠い状況です。もちろんこの問題は菌が薬剤耐性を持つという話なのでウイルスに関するものではありません。そもそもウイルスには抗生物質は効かないので関係ないのでは、と思われるかも知れませんが、抗生物質が大量に投与され続ければ、家畜の基本的な免疫力が失われ結果的にあらゆる感染症に罹りやすくなります。当然ウイルス性疾患にも罹患するはずですし、さらにそれが人に感染する可能性は十分に考えられます。
また畜産業の問題は薬剤耐性菌の温床になるという話だけではなく、あらゆる環境への悪影響が大きいと言われています。畜産業は経済成長とともに、より合理的な生産を求められました。それによって飼育環境が、より大型化、集約的な工場のように様変わりし、多くの動物たちが陽の当たらない空間に密飼いされベルトコンベアで運ばれる薬剤入りのエサを食べさせられるだけという状況が主流となりました。
それだけでも動物福祉の観点から見れば十分問題なのですが、畜産により発生する温室効果ガスの影響が最も深刻と言われています。これは家畜や排泄物から発生するメタンガスが、世界中の輸送機関(車、船、飛行機等)から排出する温室効果ガスの合計よりも多く排出されており、温室効果ガス全体の18%を占めると言われています。
それ以外にも中国やインドといった人口の多い新興国が、経済成長とともに食肉の需要が急増しているため、もし今後各国が欧米並の食生活を求めようとすれば、需要に合わせて畜産業に必要とされる広大な土地、エサとして大量の穀物とそれを栽培するための場所、使用される農薬と化学肥料の問題、そして栽培するために使われる大量の水、排泄物による地下水の汚染など多くの問題に対する解決策が必要になります。結果、人間の生活の場が奪われ、おそらく地球が1つでは足りないくらいだろうとも言われています。
食肉のうち最も効率良く生産されている鶏でさえ1キロカロリーの肉を得るために9キロカロリーのエサが必要になり、牛肉に至っては、1kgの肉を生産するのに11kgの穀物(トウモロコシ換算)が必要と言われています。つまり、温室効果ガスの発生を1%減らそうと躍起になるより、今日食べる肉を半分に減らした方が、遥かに環境に良い効果があるという話です。このように書くと何やら畜産業が環境悪化の元凶のように聞こえますが、まず認識いただく意味で様々な問題点を挙げてきました。
さて、本題はここからになります。前述した問題に関連して最近米国で食肉事情に大きな変化が起きています。それは、肉を培養して大量生産しようという試みです。つまり動物を飼育して食肉の生産をするのではなく、工場で細胞を培養して肉そのものを作り出そうというものです。これが、いよいよ試験段階から実用段階に移ってきて現実化しそうなのです。もし実現すると理論的には一個の細胞から世界中の人の必要とする食肉製品を供給出来ることになります。
【参考資料】
『薬剤耐性資料一式』 厚生労働省
『CLEAN MEAT』 ポール・シャビロ著 日経BP
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