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ライフジャーナル(大類久隆)

日本茶が消えようとしている

2022.07.15

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、日本茶の今について考えてみました。


日本茶が消えようとしている

お茶がお茶でなくなるとき
本来のお茶の姿とは

今回は、日本茶について一度しっかり書いておきたかったので考察を交えて書いてみます。
ここ数年ほど日本茶のことがとても気になっていて、「いつかは手を付けなければ!」という義務感みたいなものがあり、自分なりに資料を集めて調べていました。
タイトルの「日本茶が消えようとしている」という意味は、お茶の生産自体がなくなってしまうという話ではありません。もちろん栽培量は年々減少してはいるのですが、それよりも日本茶の味や文化という意味で、すっかり様変わりしてしまったということです。ぜひ普段日本茶を飲まない方にも、お茶の世界が本来の姿からかけ離れたものになっていることを理解いただければと思います。

まず、日本茶を茶樹の品種で選んでいる方は稀だと思います。例えばワインにこだわる方は、どのブドウを使ってどこの誰が栽培して醸造したかまでこだわりますね。紅茶の場合はダージリンやアッサムなど産地名で分けられることがほとんどですが、やはりこだわる方は、ダージリンでもどの茶園で栽培されたかまで気にします。しかし日本茶の場合は、静岡茶や宇治茶など地域名で分けられて、後は煎茶や玉露、ほうじ茶や番茶など栽培方法や製茶方法で選ぶことがほとんどで、茶樹の品種は出てこないのが現状です。

日本茶の茶樹の品種というのは、そもそも多くはないのですが、現在全国で栽培されている茶葉の75%が「やぶきた」という品種になっています。しかもタネから育てたものではなく、すべて挿し木で増やしたクローンになります。ここがとても重要なのですが、通常タネから育てる茶樹を実生(みしょう)と言いますが、実生で育つ茶樹は蒔かれたその環境に適応しながら育ちます。

一方、挿し木の場合は栽培するにはタネから育てるより楽なのですが、性質がまったく同じように育ちます。そのため、性質が近すぎて全国みな同じような味と風味になってしまっていることや、天候の影響や病気が発生するタイミングなどが同じになる可能性があるため、多様性という意味では、様々な問題をはらんでいると言えます。

なぜ「やぶきた」という品種がこれほど全国に広がったのでしょうか?
「やぶきた」は明治41年に静岡県で生まれ、その耐寒性があり病害虫に強く、比較的栽培がしやすいことから昭和30年代に静岡県の奨励品種になり、全国に広がりました。特に在来種より収量が多く摘採期が早いことが、大きな理由になります。つまり、新茶のシーズンにどれだけ早く市場に出せるかの市場性によって広まった訳です。

全国の生産地では、新茶のシーズンに早く市場に出せれば買取り価格が大きく違ってくるため、競うように「やぶきた」を導入した背景があります。ところが、「やぶきた」は淹れたときに濃い緑色になり苦味が強く、主にブレンド用として導入された品種です。そして、その苦味を和らげるために蒸し時間を長くする深蒸し製法が確立されたことで茶葉が粉状になり、急須の目が詰まりやすいお茶になってしまいました。そうして、お茶の最大の特徴である香りを失ってしまい、日本茶の世界が一変することになりました。

もちろん、「やぶきた」がお茶の品種として質が悪いということではなく、十分に良さも持っています。あくまでお茶業界の市場性の都合で、より早くより多く収穫しようとした結果、肥料と農薬の回数が増え、機械化や合理化で日本茶全体が現在のような画一的なお茶ばかりになったという事です。一方、「やぶきた」より摘採期が遅い在来種のお茶は、栽培に手間もかかることから結果的に市場から姿を消すことになりました。

本来のお茶の栽培地というのは、稲作の出来ない山間部でした。そこで栽培されていた山茶が本来の姿に近いのですが、収穫が機械化出来ず手摘みという重労働が生産者にとって負担であった上に、安い価格でしか取り引きされませんでした。その結果、山間部の茶畑の多くが耕作放棄地となり、より低地の広い土地での集約的な農業として変化していったことも味や香りに大きな影響が出ることになりました。

さらに、日本茶の問題点はこれだけではありません。お茶の最大の特徴は香りであると書きましたが。これは煎ったり蒸したりするときの香りではなく、淹れたときに出る独特の芳香です。実はこの香りがなくなってしまった最大の原因は、機械で収穫してすぐに製茶することにあります。手摘みの場合は時間をかけてゆっくりと籠の中で揺られ風に当たりながら進められます。そうすることによって萎凋(いちょう)という現象が起こります。萎凋とはゆっくりと水分を蒸発しながら、葉が萎(しお)れてくることで、自らの酵素によって微発酵が起こります。この微発酵の作用によって独特の芳香を放つということです。

本来の日本茶の世界観を描こうとすると本が一冊書けるほどですが、今回はほんの一面をご紹介する形になりました。昔ながらの在来種のお茶は、淹れた時の色は黄色か淡い茶色に出ます。最近の濃緑色でドロっとして粉っぽいお茶は本来の姿ではありません。本当に美味しいお茶を求める場合は、機会がありましたら肥料を入れない在来種の萎凋したお茶を一度飲んでみてください。世界観が変わると思いますよ。

ナチュラル・ハーモニーでも昔ながらのお茶の取り組みに今後力を入れていきたいと思っています。

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文:類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?

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