ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
「原子力発電」をテーマに前後編でお送りしております。
前編では、日本と原子力発電事業との関係をご紹介しました。後編では、原子力発電事業がなくなる理由と、各国の動向についてお伝えしたいと思います。
> 前編はこちら 「原発エレジー 原発事業に送る哀歌【前編】
電力会社から届く請求内容に不可解な部分があります。
新電力会社が増えたとはいえ、基本的に発電・送電を含めて大手電力会社が独占している状態です。その状況の中で電気料金を決めるのに「総括原価方式」(※)という方法をとっています。簡単に言えば発電事業に関わるコストはすべて請求に上乗せできる仕組みになっていて、特に固定資産に3%掛けた比率で利益を増やすことができるというルールです。つまり原子力発電所を建設して稼働すればするほど儲けが出て、決して損をすることがない仕組みになっています。
※総括原価方式…電力自由化に伴って廃止が決まりましたが、一定期間の経過措置が取られるため料金体系はしばらく継続します。
もちろん公益性の高い事業では総括原価方式はその事業を安定的に運営できるよう、電気に限らず導入されている方法なので、決して総括原価方式自体が悪ということではありません。しかし福島第一原子力発電所事故後の処理費用が上乗せされる可能性があることや、何より高コスト体質が変えられずあらゆる企業努力を怠る仕組みになることに問題がありました。
さらに電力会社の固定資産という部分では一時ニュースでも話題になりましたが、原子力発電所で出た使用済み核燃料が資産として計上されているという事実です。つまり使用済み核燃料が多いほど利益も増えていくという仕組みになっています。だから出来るだけ大型の原子力発電所を高コストで建設するほど電力会社は儲かるのです。
使用済み核燃料がなぜ資産になるのかと言えば、前述した「核燃料サイクル」が存在しているからです。リサイクルを前提にしているので将来の資産であるという理由ですが、これも核燃料サイクルが完全に破綻してしまうか、廃炉となると自動的に廃棄物となります。もし現在資産として計上している使用済み核燃料が廃棄物となった場合、ほとんどの電力会社が債務超過に陥る可能性があります。
ちなみに日本では、使用済み核燃料の最終処分場はまだ存在していません。また各原子力発電所から出る使用済み核燃料は数年間冷却保管した後、本来であれば六ケ所村の再処理施設に送り再処理される予定のものが、まったく稼働していないため再処理施設内で一時保管という形をとっています。しかしここも既に満杯の状態です。さらに一部の電力会社が青森県むつ市にて中間貯蔵施設の建設を行っており、今年中に操業予定となっていましたが審査がクリアできず延期になっています。
さて、原子力発電事業に関する不可解な状況や問題点をお伝えしてきましたが、実際のところ海外の原子力発電事業がどのような流れにあるか、ここが今後の日本の原子力発電事業にとっても重要になってきます。
ここからは分かりやすくするため、あえて固有名詞を出しますが、名前の出た会社や団体だけに問題があるのではありません。事業というものがそもそも平和利用のためにスタートしたものではないことが前提であることをご理解ください。
東芝が米国の世界最大の原子力発電所建設メーカーであるウェスティングハウス(以下WH)を買収したのですが、WHの90億ドルにもおよぶ損失が明らかになり、親会社である東芝が7千億円を超える損失を計上し、いきなり経営危機に陥りました。
なぜこのような事態に陥ったのかということですが、根本的な原因は世界的に事業の流れが縮小に向かっているなか、WH自身が抱えていた問題点を買収当時に見抜けなかったこと、東芝としては他の重電メーカーである三菱重工や日立と比較してシェアを拡大したいという焦りに加えて、国策としての後押しが色濃く影響していたため、後になって引くに引けない状況に陥っていたと言えます。
世界の主な原子力発電所建設メーカーとしては、いま挙げたWHと東芝のほか、三菱重工と仏国のフラマトム(旧アレバ)、日立と米国のゼネラルエレクトリックなどが業務提携や経営統合を行い世界の多くのシェアを占めています。そこにロシアのロスアトムや中国のメーカーが台頭してきています。
各国の原子力発電への取組み方や方向性はもちろん様々ですが、特に福島の事故がきっかけとなり西側諸国を中心に安全対策としての検査基準がより強化されました。それに伴って建設コストが倍増しており、同時に国民の目も厳しくなっていることから、ドイツやスイスなどが原子力発電の全廃を宣言したのをはじめ、ベトナムでも建設計画が白紙撤回されています。
また各国で建設計画がある原子力発電所も、安全対策上の工事が増えることで大幅に工期が延び、採算が取れなくなるものが多数出てくる可能性があります。
以上のように原子力発電事業が様々なコストが上がることでビジネスとして成り立たなくなっているのが実情です。特に米国はシェールオイルの開発により天然ガスが値下がりしているため、無理をして高コストの原子力発電に依存する必要がなくなっており、主なメーカーも事業縮小に動いています。ロシアや中国などの新興国は原発事業に積極的な国ですが、今後は計画の変更を余儀なくされる可能性が十分あります。
結果的に東芝以外の日本のメーカーも世界の原子力発電事業縮小の潮流に逆らった形で進むと、衰退しつつある事業を抱えて大きな損失を被る可能性があります。まだ事業として成り立つのは廃炉に関わるビジネスの方向性ぐらいではないでしょうか。
日本では原子力発電事業をいわば国策として進めてきた背景があります。その本当の意図は核兵器の開発にあるのですが、その計画を何としても継続させるために民間企業を巻き込んで原子力ビジネスという巨大な枠組みをつくってきました。民間企業を巻き込むために電力会社には多くの利益が集まる仕組みをつくり、その関係性を強固にしてきたのです。
しかし先に挙げたように、使用済み核燃料の再利用はほぼ不可能になっており、日本に最終処分場の出来るめどはまったく立っていません。日米原子力協定は自動延長になりましたが、今後どちらかの国が一方的に破棄できることになっているため、もし米国が破棄すると言った場合、すべての余剰プルトニウムを手放して他国に委ねるしかなくなります。その時、原子力発電所の存続できる確率はゼロに等しくなるでしょう。
廃炉になったとしても使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物は残ります。これらを10万年におよぶ保管上の安全対策を行い、その保管費用を誰が負担していくのでしょうか。
さて、今回は日本が原子力発電をどうしても止められなかった理由と、事業としてその体制が続かなくなっている状況をお伝えしました。おそらくこのコラムを読まれている方の中でも意見は分かれるかと思います。しかし私はこの潮流に逆らうことはできないと考えています。きっと日本をはじめ世界中の原子力発電所は時間をかけて、そして相当な痛みと禍根を残しながらも必ずなくなっていくでしょう。核兵器も同じ道をたどると信じています。
いつの日か人類は、英知を結集して不断の努力を行い、その結果、地球上から核の危険を完全に消滅させることになるでしょう。これから生まれる子どもたちへの負の遺産を少しでも軽くするため、その日がいつの未来になるかは、私たち世代の努力次第です。
> 前編はこちら 「原発エレジー 原発事業に送る哀歌【前編】
【参考資料】
『United States Circumvented Laws To Help Japan Accumulate Tons of Plutonium』
国家安全保障通信社 > 記事はこちら 「DC BUREAU」
『核を求めた日本』 外務省 報道に関する調査資料一式
『小出裕章』 講演録一式
『東芝を沈めた原発事業大誤算』 プレジデントオンライン 大前 研一著
『原発のコスト』 大島 堅一著 岩波書店
『河野 太郎』 公式サイト
『日米原子力協定』 1988年版
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