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生産者

千葉県山武市 不破 孝太さん「自分が変われば土が変わり 土が変われば作物が変わる」

2024.01.16

不破 孝太さん…1974年神奈川県横浜市生まれ。イーストファーム主宰。畑のある成東や東金という東にちなんだ地名が園名の由来。愛称はゴン君だが、高校時代はラグビー部。サッカー経験はない。


若いころ絵描きを志しながらインドを放浪していた不破 孝太さんは、帰国後ナチュラル・ハーモニーに入社した。

2004年自然栽培の青果を扱う個人宅配「ハーモニック・トラスト(現ナチュラル・ハーモニーの宅配)」が立ち上がり、当初8人での事業の立ち上げをタフに乗り越えた。
もともと職人気質で、ものづくりに深い興味があった不破さん。産地担当だったこともあり、農家と接するにつれ徐々に「農業をやりたい」という気持ちが強くなっていった。当時、個人宅配の事業所には、自然栽培を学ぶ農業研修生が多かったこともあり、そうした仲間と共に農家になる決意を固めていった。

「最初は、農業をやるなんて思ってなかったです。でも、やっぱり自分で何かを作るという仕事が好きだったんですね」

新規就農といっても、まともに設備投資しようとすると一千万単位のお金がすぐに消えてしまう。技術的に肥料・農薬を使わない自然栽培は、収穫量もすぐに期待できるわけではないのでさらにリスクも伴う。大きな財産もない中で、一から新規就農して取り組むことは決して楽なことではない。不破さんも悩んだ。

そんな時、妻の瑞穂さんがいった。

「やってもいいよ、農業」
その言葉を「やるならちゃんとやって」と背中を押し、決意を促す言葉だと受け止めた。やさしくも厳しい言葉だった。すぐに長男大輔くんが誕生し、不破さん一家の畑に向き合う日々が始まった。

「当初は、かなり自己催眠をかけました。ゼロからのスタートだったので、ちょっとでもだめだと思ったらできなくなりますからね。とにかく自分を信じ込ませることに徹していました」

最初の転機は2011年の震災だった。農業を一緒に取り組んでいた仲間が震災を機に移住を選択したのだ。

心が揺れた。しかし、悩んでいるんだったら被災地に行ってみろとある人に言われ、夫婦で震災後間もない陸前高田へボランティアに向かった。
そこで二人は衝撃的な光景を目の当たりにする。もはや人の生活が営まれていたとは思えない光景だった。住居であっただろう建物は、鉄骨がわけのわからない方向に折れ曲がっていた。めちゃくちゃな田畑を見て農家としていたたまれなかった。避難所にもいった。そこには変わらず陸前高田で生きていこうとする人たちがいた。

不破さんは思った。
「自分の悩みなど、この人たちの比じゃない……」

「悩んでいる場合じゃない。自分には家も土地もある、家族もいる。贅沢を言うことはない、一人でもやろう。この土地に根を張ろう」

不破さんは決意した。

2ヘクタールある農地で、草取りに没頭する夏が始まった。里芋畑の脇に背の高さより高く積まれた草が、生垣のように一列にわたってそびえたっていた。不破さんがたった一人で草取りしたものだった。言葉を失った。
その姿に、地域の農家の方々も不破さんへの信頼を深めた。

就農して3年目まで病気が絶えなかった。さつまいもが全く育たなかったり、大根が虫に食われたり、空豆がアブラムシで全滅したりした。

新規就農者が借りられる土地は、決して条件のいいところばかりではなく、むしろ悪いところも多い。借りた畑の中にも、肥料や農薬など土にとっての異物が大量に畑に投入されてきた場所がある。そんな場所を手放すこともできたが、不破さんは縁のある土地に向き合うという決意をした。

もうだめかと思うこともあった。正直、血の気が引いて足がすくんだ。今月生活できるだろうか、そう思ったこともあった。しかし、だめなものはだめなのだ。あきらめて切り替えることを覚えた。

農家の仕事は、当然のことながら9時から5時の定時で終わるものではない。夜中の2時に起きて畑に出ることもあったし、真っ暗になるまで仕事をすることもあった。しかし焦りのある無理は時に事故につながる。機械に指を挟んで大けがをしたこともあった。自分を戒める大切な経験となった。

自然栽培の基礎となる土づくりでは、土へ投入されてきた肥料や農薬などを取り除き、植物の力で作物が育つ土壌を作ることが重要になる。清浄かつ、腐植と団粒構造の豊かな土壌が理想だ。もちろん、そのことを知ってはいても、一人で作業をこなすことに必死な不破さんは、土づくりになかなか目を向けることができなかった。
しかし、病気が続く作物の状況をみて、意識が変わった。エンバクや麦などといった植物で土の汚れを取り除き、腐植を入れることを意識するようになると、徐々に作物の表情が変わってきた。自分が変われば土が変わり、土が変われば作物が変わることを実感した。

日焼けした肌の奥で目を輝かせた不破さんが言う。
「時折、いろんなことを考えて眠れない夜もあります。でも、無から有を生みだすような自然栽培ってやっぱりいい」

瑞穂さんが言葉を添える。
「これまで乗り越えてきたんだから、もう大丈夫だよね」

二人の言葉から、家族で一歩一歩生きようとする静かな意志を感じた。


不破さんの畑「East Farm」にて、1年を通して農と触れ合い学ぶ事ができるイベント「In Farm」を不定期で開催しています。
自然栽培畑でのんびり羽を伸ばして、心地よい休日をすごしませんか?

■In Farmの詳細・お申し込みはこちら
http://naturalharmony.co.jp/event/infarm/

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