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料理人

料理人 浅川 勇人 「食材が導いた料理と自分」

2021.07.16

「料理をするようになったのは小学生の頃。自分で本を見てお菓子を作ったりしていました。食べることより作ることの方が好きだったな」


八ヶ岳南麓にある、自然豊かで美しい清里高原。
観光地として有名な場所で、両親が経営する喫茶店を幼い頃から手伝っていた。夏休みには毎日のように調理場に入っては、当時働いていたコックさんから料理についてさまざま教わった。初めて聞くことばかり。少年の目には全てがキラキラ輝いて見えた。
「フランス料理のコックになること」。中学の卒業文集で書いた将来の夢だ。
「かっこいいと思ったからフランス料理を選んだんだね。自分の生活から想像できない世界だったから、余計ワクワクしたし憧れたな」。

幼少期を振り返る浅川 勇人は、Restaurant日水土のシェフを務めて11年になる。
高校卒業後、地元のフランス料理屋で働いた。包丁の使い方や、食材にあわせた火の入れ方を何度も繰り返しては体に染みつけた。
料理の勉強と仕事の両立で多忙な日々を過ごす中、以前から抱いていた東京への憧れが強くなっていった。自分の実力を試したいという思いから東京に行くことを決めた。緑あふれる自然豊かな場所から一転、ビルや人混みの街に新たな一歩を踏み出した。
 
有名店をはじめとし、数軒のフレンチレストランで腕を磨いた。その後、築地にある会員制のワインバーでシェフを務めていた時のこと。当時、世間では狂牛病が問題となり、毎日のようにニュースや新聞でその話題が取り上げられた。飲食業に携わる者にとって経営難を引き起こす要因にもなった、大きな出来事だ。

同じ時期に「食の裏側」(安部 司著)という本に出合う。
「読んだ後、食の世界は恐ろしいんだと思った。食を提供する側は安心安全よりも利益が優先。本当にそれでいいのだろうか」。不信感と疑問が心を埋めていった。
それが、食への観点を見つめ直すきっかけだと話す。

ナチュラル・ハーモニーへの入社は、当時仕事で関わった人から紹介されたことがきっかけだった。
初めて聞く自然栽培のことや天然菌醗酵食品の話に心が躍った。
「自然に寄り添った本来の食を提供したい」。
悶々としていた心が晴れた気がした。 

「毎年、青ナスが出始めたときは初心に返る思いがする」。浅川は懐かしそうに振り返る。
長年洋食を作り続けてきたため、シェフに就任した当初は味噌・醬油といった和の調味料を使うことに苦労した。なんとか形にしても、家庭料理の枠を超えられずにいた。
自分が納得して提供できる料理ではないのに、これでお金をもらっていいのか。思い通りにならないもどかしさと、全く違う分野の料理を作り続けることに自信が持てなかった。

そんな時、一つの野菜が浅川の心を大きく動かす。それは茨城県で自然栽培に取り組む田神 俊一さんの「青ナス」だった。田神さんの野菜は、多くのシェフを魅了してやまないほど評判だった。
外皮は黄緑色で直径7〜8センチ以上もある、ずんぐりむっくりした形。初めて見る野菜に戸惑ったが、料理人の心をくすぐった。急いで厨房へ行き、ソテーして塩をふってそのまま食べてみた。一口食べた瞬間、体に電気が走ったかのような衝撃を受けた。果肉はとろけるほど柔らかく、口の中で優しくほどけた。

「こりゃ何だ!? って思うくらい、衝撃的な美味しさだった」。
こんなにも感動し、素材に向き合えた気がしたのは初めての経験だった。
「そのままで美味しいものをあえていくつも手を加える必要はない」
「一つの食材に対してきちんと調理をしてあげることで、本来持つ力を最大限活かすことができる」。食材への向き合い方がはっきりと分かった出来事だった。

調理をする際、味付けは基本的に塩。いくら良い醤油や味噌といえど、それに頼ってしまうと素材本来の味を消してしまい、素材の持つ美しい色が出せないからだ。「調理しすぎない」「調味料に頼らない」野菜に対する愛情の深さが伝わった。

そして、もう一つ浅川が大切にしていることは「生産者の顔が見える料理」だ。
「ただ料理が美味しいってだけで満足してはいけない。例えば大根を使った料理を出した時に、料理が美味しかったって言われるよりも、大根が美味しかったって言われた方が嬉しい。誰の大根かなんて聞かれたら最高だね」
野菜が実るまでのストーリーや、生産者の想いを一緒に伝えることも料理人の役目だと話す。そうすることで、料理という目線ではなく野菜ひとつひとつを感じ、より一層美味しく味わってもらえる。

大きく変化したのは、料理の組み立て方。食材を調理法に当てはめるのではなく、調理法を食材に合わせていく。目的の料理を作るために食材を集めるのではなく、今あるものをより美味しくするには、どう調理したらいいのかということを重視するようになった。
食材を切り方や厚み、加熱調理の少しの時間の違いでその味わいも変化する。そういうさじ加減を自分自身の五感で感じ取りながら、ひとつの「作品」を生み出してゆく。
 
これからも「Restaurant日水土」をよりたくさんの野菜を楽しめるお店にしたいと話す。9種の料理をワンプレートに表現しているのもその理由のひとつだ。一皿で約20種類もの野菜を使う。そうすることで、色々な野菜を少しずつ味わえる。美味しさを知って、店頭で実際に手に取って買ってもらう。そうやって食材に対するありがたさや、農家さんの想いをレストランから広めていく。

「自然栽培の野菜は自分をわくわくさせてくれる存在。『俺をどうやったら美味しくできるかやってみろ』って挑戦状を叩き付けられている感じ。いい野菜だからこそ、それを感じ取ることに集中して、決して手を抜かない。だからいつも真剣勝負じゃなければいけない。この野菜がなかったら今の自分の料理はない。だから師匠でもあり、相棒でもあるかな」

その瞳は、少年時代から今も変わらず輝き続けている。


浅川 勇人(アサカワ ハヤト)

20年余りフレンチで腕をふるったのち、安全な食材への関心が高まってきたときにナチュラル・ハーモニーと出会い、ナチュラル・ハーモニー直営レストラン「Restaurant日水土」(2020年3月閉店)にて、自然栽培食材や発酵食を使用したフレンチベースの料理を提供。
自然栽培野菜や、常に変化する本物の発酵食品を扱う中、試行錯誤を経て「命を活かす」調理方法を体得。素材選びから盛りつけまで精通した料理人として注目を集める。人と自然の調和を第一に考え、現在は聖路加助産院マタニティケアホームでも料理を提供。お母さんとお子さんの食育にも貢献している。山梨県北杜市出身で普段から自然を愛し、山歩きと川釣りが趣味。


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