カテゴリーを見る

商品

社会・環境

生産者

ライフジャーナル(大類久隆)

パーム油は現代社会の縮図である

2026.07.30

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、私たちの身の回りの多くの商品に含まれる「植物油脂」の主な原料である、「パーム油」について、それを取り巻く環境問題や様々な背景に焦点を当ててみます。


 

パーム油は現代社会の縮図である

 

誰かの犠牲の上に成り立つ見えない油

何を選ぶかで世界は変わる

普段の生活で口にするスナック菓子、チョコレート、あるいは毎日使う石鹸や洗剤。私たちの身の回りの商品には、沢山の「植物油脂」が含まれていますが、その多くに「パーム油」が使われています。しかし商品の表示上も「植物油脂」とされることが多く、パーム油という具体的な名前が見えにくいため、別名「見えない油」と言われています。

パーム油は現在、世界で最も消費されている植物油ですが、近年その裏に潜む深刻な環境問題や人権問題が広く指摘されるようになりました。しかし、問題は「パーム油を使うのをやめれば解決する」ほど単純ではありません。そこには、地球規模の大きなジレンマが存在し、それ以上に社会構造そのものの問題があります。今回は、パーム油を取り巻く環境破壊の問題だけではなく、複雑な背景や仕組に焦点を当ててみます。

 

1. 圧倒的な「高効率」と代替の罠

パーム油が世界中でこれほどまでに普及した最大の理由は、その圧倒的な生産効率の高さにあります。

・米国農務省(USDA) 植物油の年間生産量推計(2024/25年度)

順位植物油の種類年間生産量世界シェア
1位パーム油約7,884万トン約35.0%
2位大豆油約7,006万トン約31.0%
3位菜種油約3,428万トン約15.0%

・米国農務省(USDA)1ヘクタール(ha)あたりの年間生産量(2024/25年度)

植物油の種類1haあたりの年間生産量(目安)パーム油との効率比較
パーム油 3.3 3.8 トン基準(1倍)
菜種油約 0.7 〜 0.8 トンパーム油の約 5分の1
ヒマワリ油約 0.5 〜 0.6トンパーム油の約 6~7分の1
大豆油約 0.4 〜 0.5 トンパーム油の約 7〜10分の1

アブラヤシから採れるパーム油は、大豆から同じ量の油を搾ろうとした場合と比較して、約10分の1の面積の農地で済みます。

この圧倒的な効率性ゆえに、「環境のためにパーム油をやめて別の植物油に切り替えよう」という安易な代替は、「より広範囲の森林伐採」を引き起こし、結果として地球規模での環境負荷をさらに増大させてしまう危険性を孕んでいます。つまり問題の所在がアブラヤシの生産地である東南アジアから、大豆の主な生産地である南米に移るだけで、根本的な解決にはならないのです。

2. 生産地で起きている深刻な環境破壊

パーム油の生産の約8割以上は、インドネシアとマレーシアに集中しており、需要の爆発的な増加が深刻な環境破壊を引き起こしています。

① 熱帯雨林の喪失と生物多様性の危機

農園を拡大するため、地球の肺とも呼ばれるボルネオ島やスマトラ島の豊かな熱帯雨林が急速な勢いで伐採されています。森を追われたオランウータンやスマトラトラ、ゾウなどの固有種は、住処だけでなく食べ物も失います。飢えをしのぐためにアブラヤシ農園に侵入した動物たちは、商品である実を食べる「害獣」として扱われ、罠にかけられたり、銃で撃ち殺されたりするケースが後を絶ちません。

国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、2000年から2018年までの世界における森林破壊のうち、約7%がパーム油(アブラヤシ)の農園が広がったことによるものとされています。数字だけ見ると少なく感じるかもしれませんが、その被害はインドネシアやマレーシアの豊かな熱帯雨林に一極集中しています。実際にボルネオ島では1980年代半ばから、様々な開発や森林火災などによって森林の約3分の1が失われてきました。パーム油のための農園開発は、その主要な原因の一つとなっています。

 

② 泥炭湿地における「野焼き」から制御不能な大火災へ

東南アジアには、枯れた植物が完全に分解されずに蓄積した「泥炭湿地(ピートランド)」という巨大な炭素の貯蔵庫が広がっています。農園を新たに開墾する際、コストを抑えて手早く作業を進めるために、意図的に火を放つ「野焼き」がしばしば行われます。

しかし、この意図的な火入れが、泥炭湿地では致命的な事態を引き起こします。アブラヤシを植えるために湿地の水を抜いて乾燥させると、炭素の塊である泥炭層は極めて燃えやすい状態になります。地表の火が一度でも地下の泥炭層に燃え移ると、火は地中深くを這うように広がる「地下火災」となり、最初の想定をはるかに超え、人間の手では消火できない制御不能な大火災へと発展してしまうのです。

何ヶ月も地中でくすぶり続けるこの火災は、何百年もかけて蓄積された膨大な二酸化炭素を一気に大気中へ放出します。さらに、この不完全燃焼から発生する有毒な煙(ヘイズ)は海を越え、シンガポールやマレーシアなど周辺諸国に深刻な呼吸器疾患をもたらし、学校や空港が閉鎖されるなど、国際的な公害問題にまで発展しています。

③ 農薬による水質・土壌汚染

効率よく大量の実を収穫するために、農園では大量の化学肥料や強力な除草剤が使用されています。これらが雨水と共に周辺の川へ流れ込むことで水質がひどく汚染され、森の生態系を破壊するだけでなく、川の魚を貴重なタンパク源としていた地域住民の生活そのものを脅かしています。

3. 安価な油を支える「見えない人権侵害」

実は環境問題以上に深く、目を向けるべき問題が「人権問題」です。世界中で消費される安価な油は、現地の労働者や先住民族の血の滲むような犠牲の上に成り立っています。

① 移民労働者の搾取と「現代の奴隷制」

マレーシアなどの巨大農園では、労働者の大半をインドネシアやバングラデシュ、ネパールなどからの移民労働者に依存しています。一部の不適切な農園では、労働者がパスポートを取り上げられるなど、強制的な労働を強いられるリスクが報告されており、国際的な問題として監視されています。またジャングルの奥深くにある隔離された宿舎では、清潔な水や十分な医療すら提供されず、極めて劣悪な環境で日々酷使されているのです。

② 過酷なノルマと農薬に晒される「児童労働」

パーム油の収穫は機械化が難しく、高い樹の上にあるトゲだらけの実(1房20〜30kgにもなる)を長い鎌で切り落とし、手作業で運ぶという過酷な重労働です。賃金は収穫量に応じた歩合制が基本ですが、企業が設定するノルマが非現実的に高いため、大人の労働者だけでは達成できません。賃金カットを免れるため、親は自分の子どもを学校に行かせず、危険な農園で手伝わせざるを得ないのです。

子どもたちは、重い果実を運ぶなどの重労働を手伝わされているほか、大人の作業員がまいた強い農薬が残る環境で適切な保護具もなく作業をすることで、間接的な健康被害を受ける危険性が指摘されています 。なお、毒性の強い除草剤であるパラコートは、マレーシアでは2020年に全面的に禁止されましたが、インドネシアではまだ限定的な使用が残っています。

③ 植民地支配から続く「土地収奪(ランドグラビング)」

新たな農園を開発する際、しばしば標的になるのが先住民族の土地です。彼らにとって森は、食料や薬を採る「生活の場」であると同時に、精神的なよりどころでもあります。しかし企業は、住民の同意を得ないままブルドーザーで森をなぎ倒してしまいます。この根底には、かつて西欧列強が植民地支配をした際の「近代的な登記証明書がない土地はすべて国有地とする」という法律が、独立後も引き継がれているという負の遺産があります。

慣習法で森を守ってきた住民は法的に土地を奪われ、抗議の声を上げれば企業が雇った警備員や警察によって暴力的に弾圧され、犯罪者として逮捕される不条理がまかり通っています。昔からの慣習的な土地権利と国の法律とのズレは今なお大きな課題ですが、近年は国際的な認証ルールなどを通じ、地域住民との丁寧な合意形成や権利を守るための制度改革が進められています。

4. 解決を阻む「サプライチェーン」の複雑さ

これらの問題が放置されてきた最大の理由は、サプライチェーンの不透明さにあります。搾油工場、精製工場、商社といくつもの業者を経由するため、商品に使われている油が「誰がどう作ったものか」を追跡することが極めて困難です。
現在、解決策として「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」の認証制度が進められています。しかし、流通過程で認証油と非認証油を混ぜて取り扱う「マスバランス方式」がコスト削減のために採用されており、消費者が手にする商品の中に認証されていない農園の油が混ざってしまうという限界も抱えています。認証制度はまだ完璧なシステムではありませんが、それでも現状を前進させるための不可欠な一歩であることは間違いありません。

5. 食の背景に向き合い、私たちが今日「選ぶ」意味

パーム油の問題の根底にあるのは、私たち先進国が享受している「安さを極限まで求める消費社会の構造」そのものです。私たちが支払っていないコストのツケを、東南アジアの熱帯雨林や、過酷な労働を強いられる人々が命がけで支払っています。先進国(グローバル・ノース)が消費し、途上国(グローバル・サウス)が犠牲を強いられるという非対称な関係は、現代の「見えない植民地主義」とも言えます。

私たちナチュラル・ハーモニーは、自然食の開発や販売に携わる中で、常に「食の背景」と向き合ってきました。体に優しい原料を厳選することはもちろんですが、「それを生産する人々の人権や、育む地球環境が守られているか」を問い続けることは、食に携わる者の責任であると考えています。
現代の消費社会において、パーム油を生活から完全に排除することは現実的ではないかもしれません。しかし、消費者である私たちには「選択する権利」があります。

● 極端に安い商品に、原料や人件費など適正な対価が支払われているかを疑問視する
● RSPO認証マークなど、環境や人権に配慮した取り組みを行う企業の商品を選択して応援する
● 大量に買って無駄に捨てる生活を見直すなど、本当に必要なものだけを大切に消費する生活を心掛ける

これらは日々のささいな行動に思えるかもしれません。しかし、私たちの毎日の買い物は、企業や社会に対して「私はこういう未来を支持する」という明確な意思を示す「未来への投票」になります。

極限まで安さを追求する社会の構造は、私たちの意識と選択で少しずつ変えていくことができます。商品の裏側にあるストーリーを想像し、共感できるものに一票を投じること。そのひとつの選択が、遠く離れた森と人々の尊厳を守り、より持続可能で優しい世界を創るための、確かな第一歩になるはずです。

参考資料:
・米国農務省(USDA)「Oilseeds: World Markets and Trade」
・国連食糧農業機関(FAO) 森林資源評価報告
・国際自然保護連合(IUCN)「パーム油と生物多様性」
・アムネスティ・インターナショナル「パーム油の大きな不祥事(The Great Palm Oil Scandal)」
・RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)公式サイト


文:類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?

> ライフジャーナル(大類久隆) 記事一覧


> ナチュラル・ハーモニー ONLINE STORE

> ナチュラル&ハーモニック プランツ(直営店舗/横浜センター北)

  • twitter
  • facebook

つむぎonlineトップへ

新着記事

new articles

随時更新中!