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ライフジャーナル(大類久隆)

酸っぱいだけじゃない、お酢の知られざる物語

2026.02.25

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、江戸時代のお酢が歩んできた驚きの歴史の一面をご紹介したいと思います。


 

酸っぱいだけじゃない、お酢の知られざる物語

最新研究が明かす江戸の幻の味

家庭のキッチンに必ずある調味料のひとつ「お酢」。あまりその歴史や成り立ちについて考えることはないと思いますが、実は、お酢はとても歴史が古く、世界最古の調味料とも言われています。そして、あの酸っぱいと感じる主な成分「酢酸」(さくさん)の味というのが、昔から醸造の世界では常識で、酢酸発酵したものがお酢であると定義されてきました。

ところが、2024年に東京農業大学の研究チームがある衝撃的な発表を行いました。それは、江戸時代の草本書(食物などの解説書)に残されたお酢の製法を忠実に再現したところ、現代の私たちが知るお酢とは似ても似つかない、「まったく別の調味料」であったというものです。今回は、この最新研究を鍵として、江戸時代のお酢が歩んできた驚きの歴史の一面を紐解いてみます。


現代科学が蘇らせた「江戸の幻の酢」

研究のきっかけは、江戸中期の文献『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』でした。そこには当時の米酢の作り方が記されていましたが、現代の醸造家から見ると少し不思議なレシピでした。それは、原料であるお米に対して、加える「水」の量が極端に少なく、「この方法では、お酢にならないはず」という声が昔からありました。そこで、研究者たちがその通りに仕込みを行ってみると、驚きの現象が起きました。現代のお酢作りの主役である「酢酸菌」が活動できず、代わりに「乳酸菌」が大量に増殖したのです。

できあがった液体は、私たちが知る透明でツンとするお酢ではありませんでした。ヨーグルトやチーズに含まれる、あのまろやかな酸味成分です。さらに、うま味成分であるアミノ酸が豊富に含まれ、香りは穏やかで、口に含むと深いコクが広がる。それは調味料というより、まるで濃厚なスープのようだったといいます。江戸時代は、まだ冷蔵庫も化学調味料もなかった時代。人々が使っていた「お酢」の一部は、酸っぱい液体ではなく、うま味もたっぷりの「乳酸発酵調味料」だった可能性が高いことが分かったのです。


「煮込むお酢」の謎が解けた

この発見は、長年料理研究家たちを悩ませてきた、ある謎を解明することになりました。 江戸時代の料理書には、「酢煎り(すいり)」という調理法が頻繁に登場します。これは魚や野菜をお酢でグツグツと煮込む料理です。しかし現代のお酢(酢酸)でこれをやると、加熱によって酸味成分が揮発してしまい、強烈な蒸気にむせ返るばかりで、酸味は飛んでしまいます。「なぜ昔の人は、わざわざ酸味が飛ぶような調理法をしたのか?」という謎があり、その答えがここにありました。乳酸は「不揮発性」の酸です。いくら煮込んでも酸味は逃げません。むしろ、煮詰めるほど酸味が凝縮され、アミノ酸のうま味と相まって、濃厚なソースへと変化します。つまり江戸の人々が食べていた「魚の酢煎り」は、さっぱりした煮物ではなく、現代で言うところの「トマト煮込み」のような、コク豊かなご馳走だったようです。


潔い「酸っぱさ」への進化

では、なぜそんなに美味しくて便利な「乳酸の酢」は姿を消し、「酢酸の酢」が主流になったのでしょうか? ここには、日本の食文化における歴史的な変化がありました。そもそも「酢酸の酢」は、「酒」が酢酸菌によって発酵することでできるもの。すでに奈良時代には伝わっていた記録がありますが、とても労力と時間がかかり、高価なものであったため、一部の貴族などのあいだで嗜まれてきたと考えられます。それが、江戸時代の中期になっても庶民には使われることが少なく、庶民のあいだで流行ったのが、手軽に作って利用できる「乳酸の酢」であったと考えられます。

しかし、江戸時代後期になると、江戸周辺でも酒造りが盛んになったことで、副産物である酒粕が出回るようになり、米酢よりも安価にできる酒粕から醸造された酢酸発酵主体の「粕酢」(赤酢)が広まることになりました。この技術が確立されたことで、屋台で手軽に食べる「握り寿司(早ずし)」の大流行とともに、殺菌力が穏やかな「乳酸の酢」よりも殺菌力の強い「酢酸の酢」が求められ、旨みも残る「粕酢」がすし酢として歓迎されていったようです。

このようにお酢は、時代の変遷とともに様々な形で利用されてきたのですが、江戸時代は特に食文化が花開いた時代であり、庶民が手軽に使える素材で、工夫しながら、豊かな食生活を送るたくましさを感じます。そして食文化の変化と技術的な進歩とともに、本来のお酢の姿に戻っていったことも興味深いですね。

現在、ナチュラル・ハーモニーで取り組んでいるお酢の醸造は、最も古来の方法で行う、天然の麹菌による酒造りから始まる米のお酢です。奈良時代に伝わったとされるお酢ですが、残念ながら、その当時の醸造方法を知るすべはありませんが、きっと自然な原料と醸造方法で醸されたお酢は味わい深いものだったのでしょうね。


■参考資料:
・Flavor assessment of a lactic fermented vinegar described in Japanese books from the Edo period (1603–1867), Heliyon, 2024.
・東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科 研究成果プレスリリース
・日本醸造協会誌 中村訓男著「進化する酢の方向を考える(江戸から平成へ)」


文:類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?

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