ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
近年あらためて、放射線を照射して遺伝子操作された稲など、遺伝子改変の実態に焦点が当てられています。
今回は動植物や微生物に至るまでの、遺伝子改変技術の全体像を解説したいと思います。
また、ナチュラル・ハーモニーが遺伝子改変をどのように捉えて、規定しているかもお伝えします。

遺伝子改変技術の全体像と天然菌を残す意味
このあと読み進める前提として、「遺伝子改変」とは、広い意味で遺伝子を人為的に改変する行為すべてを指します。そして、その中に「遺伝子操作」、「遺伝子組み換え」、「ゲノム編集」などの技術が含まれていると考えてください。
遺伝子改変の歴史
まずは、遺伝子を人為的に改変する技術の歴史を遡ってみたいと思います。
遺伝子という概念がない古代の時代から、意図的に生物の形質を変える行為は行われてきました。家畜動物や稲などの交配を物理的に繰り返すことで、人間にとって都合の良い性質を持つように作り変えてきました。ただし今回は、古くから経験的に行われてきた改変(品種改良)ではなく、20世紀以降の遺伝学が確立してから、化学的な作用によって遺伝子を変異させる行為に絞って解説したいと思います。(注)
20世紀の初頭に、放射線が遺伝物質に影響を与えることが認識され始め、1920年代後半にラジウム線を植物のシダ類に照射して、突然変異を誘発させることに成功します。その後、ショウジョウバエにX線を照射することで、突然変異を誘発できることを発見しました。これらの発見によって、自然界で稀にしか起こらない突然変異を人為的に、しかも高頻度で引き起こせることが分かりました。
また、放射線の研究よりも少し遅れて、1940年代半ばに、第一次世界大戦で使われた毒ガス「ナイトロジェンマスタード(マスタードガスの一種)」が、ショウジョウバエの突然変異を引き起こすことを発見して、化学物質が遺伝子の突然変異を誘発することも発見されました。
20世紀の後半になり、DNAの構造解明以降、遺伝子をピンポイントで操作する現代的な「遺伝子工学(バイオテクノロジー)」の時代が始まりました。1953年にDNAの二重らせん構造が解明され、これにより、遺伝子の本体がDNAであり、どのように情報が保持されているかが明らかになりました。1970年代前半には、ある生物のDNAの断片を切り出し、別の生物のDNAに組み込む技術が開発されます。これが「遺伝子組換え」技術の始まりになり、その後は、農作物や医薬品を中心とした開発が盛んに行われています。

そして、2010年代に入ると、ゲノム編集と呼ばれる新しい技術が登場します。これは、CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)といった、特殊分解酵素を使い、狙った遺伝子を非常に高い精度で改変できる技術です。
さらに、それとほぼ同時期に、発酵に関わる微生物の遺伝子を操作することで、「発酵法」という工業的な生産方法として確立されていくことになります。このきっかけとなったのが二つの戦争でしたが、第一次世界大戦中に爆薬の原料となるコルトダイトの製造に必要なアセトンを大量生産するため、発酵法が工業技術として利用されるようになり、続いて、第二次世界大戦中には、感染症治療薬である抗生物質のペニシリンの工業的な大量生産技術が確立されました。これにより、発酵法は食品産業だけでなく、医薬品分野でも重要な役割を担うことになりました。
その後、日本においても、うま味調味料の原料であるグルタミン酸ナトリウムを、遺伝子操作した細菌から大量生産することに成功しています。もちろん、現代では多くの発酵に関わる微生物の遺伝子操作を行い、安定的に生産できる技術を確立しています。
遺伝子改変の用語の定義
ここで、「遺伝子操作」、「遺伝子組み換え」、「ゲノム編集」の違いを定義するため、3つの遺伝子改変技術の比較と違いを以下の表にまとめました。

上記の表の通り、微生物、動植物の遺伝情報を改変する技術は、3つに大別できます。そして最も明確な違いは、「改変の精度」、「改変の対象」、「最終生成物の特徴」です。さらに分かりやすく補足すると以下の通りになります。
放射線を照射すること、または、薬品によってゲノム全体に変異をランダムに発生させ、その種の中の遺伝特性を突然変異させることです。その中から、たまたま望ましい性質を持った個体を選び出す、というアナログな手法です。
ある植物に動物や昆虫などの遺伝子を組み込むことを指し、外部から持ってきた新しい遺伝子を細胞に入れるイメージです。どこに入るかは運任せな部分があります。
遺伝子の中の狙った場所にある特定の遺伝子のDNA配列だけを切断し、もともとあった設計図の誤植を、ピンポイントで修正したり、生物が持っている遺伝子の機能を停止させたり(ノックアウト)、ごく一部の塩基配列を書き換えたり、修正したりします。特定の文字を消したりするイメージです。操作が精密で、最終的な結果が自然界でも起こりうる変化と区別しにくいという特徴があります。
以上の内容から改変の精度で言えば、意図した改変をほぼ狙い通りに行うゲノム編集技術が最も高いのが分かると思います。

食品への利用状況
これらが、遺伝子改変技術のおよその歴史とそれぞれの技術の違いですが、すべての技術が現在でも並行して実践、使用されています。そして、食品の分野に限っても微生物をはじめ植物や動物まで、あらゆるものに遺伝子改変技術が応用されていますが、もはやそれを利用した食品を完全に見極めることや避けることは、ほぼ不可能であるといえます。
最も古く長い期間、研究が行われてきた「遺伝子操作」で生み出された作物だけでも世界で数千種類あるといわれています。日本でも例外なく研究が行われて、多くの微生物、稲、野菜、果樹、穀物の改変が行われてきました。
規制の分野でいえば「遺伝子操作」は、ほとんど規制がなく、各農業試験場や研究機関に、その安全性を含めた管理を任されて、有機認証の取得も可能になっていますが、最も実態が分かりづらいといえます。
逆に「遺伝子組み換え」は非常に厳しい規制があり、例えば日本で商業的に栽培を認められているのは、観賞用の花のみにとどまっています。ただし、食用でもまだ栽培は始まっていませんが、法的に栽培が可能とされている作物は現時点で160種類以上あります。
また、「ゲノム編集」はまだ始まったばかりでもあり、いまのところ日本で明確な規制はありませんが、届け出のみで販売可能となり、遺伝子組み換えのような安全性審査は不要です。真鯛やフグなど、魚類の流通が始まりましたが、社会的にも倫理的にも抵抗感が大きく、社会的な議論や今後の規制のあり方については、現在も検討が続いています。

話題のお米の放射線育種
さて、近年放射線育種の稲であると話題になった「あきたこまちR」という品種ですが、2025年から正式に作付けが始まりました。この稲は、「あきたこまち」と放射線照射され遺伝子改変された「コシヒカリ環1号」を交配した株に、さらに7回「あきたこまち」を交配してできた500株の中から、選抜された品種です。
背景として、導入された秋田県の一部地域に鉱山があり、そこから流出した重金属であるカドミウムが水田に流れ込むことがあります。また稲には重金属を吸収しやすい特性があるため、「コシヒカリ」に重イオンビーム(放射線の一種)を照射して突然変異を誘発しました。カドミウムをほとんど吸わない株を、6世代以上栽培し、選抜を繰り返し育成された品種が「コシヒカリ環1号」になります。重イオンビームは、強いエネルギーを集中して照射できる特性があるのですが、最終的に作出した作物から放射線が出ることはなく、数世代以上を経ていることで、安全性の確認ができており危険性はないとされています。
その導入の理由は、正式な発表では、従来の稲作でカドミウムを低減するために湛水することで、逆にヒ素の吸収量が増大してしまうジレンマがあり、これらの解消と、より厳しい国際基準に合わせるためであるとされています。一方で、そもそも鉱山跡地がある場所は秋田県の一部に限られ、秋田県全域でカドミウム汚染が広がるほどの被害はありません。もちろん土壌には、微量のカドミウムをはじめとした重金属が含まれ、稲の特性としても吸収しやすいため、極微量の検出はあり得ますが、危険なレベルではありません。それでも全域で推奨品種として導入された背景には、少し疑問が残ります。
「コシヒカリ環1号」以外の稲でも、過去多くの「遺伝子操作」された品種がありますが、育種の過程が、かなり複雑であり、系譜をたどらない限り消費者にはまったく分からないのが現状でしょう。

ナチュラル・ハーモニーの取り扱い基準
そこで、ナチュラル・ハーモニーの取り扱い基準として、「天然菌」による発酵食品基準をはじめとする、放射線や薬品などで「遺伝子操作」された微生物を使用した発酵食品や作物の取り扱いについて、見解を書いておきます。
まず、ナチュラル・ハーモニーオリジナル発酵食品、もしくは、ナチュラル・ハーモニーが天然菌発酵と認定した食品天然菌を利用した発酵食品には、化学的な純粋培養や遺伝子の改変が一切なく、自然の環境や蔵内で採取された天然の菌を利用しています。
その他の発酵食品については、発酵に関わる微生物について、かなり広範囲で改変が行われており、代替するのが極めて困難なもので、食品としての必要性も高く、経験的にも安全性が認められているものを取り扱います。例えば、チーズ、ヨーグルト、発酵バター、酒類のうち一部の味醂、料理酒などに使用する発酵醸造菌。加工食品の原材料の一部として利用される醤油、味噌などに使用される麹菌などです。
また、農産物については、検証を慎重に進めたうえで、その作物の導入される背景や目的に合理性があり、必要以上に栄養素や特性に付加価値を付けたものではなく、十分な安全性が認められるものを取り扱います。もちろん、引き続き「遺伝子組み換え」、「ゲノム編集」食品については、混入の恐れがあるものを含めて取り扱いをしません。

ナチュラル・ハーモニーではかねてから、遺伝子改変技術を利用した商品について、明確な基準を設けてきました。特に発酵に関わる分野について、「天然菌」による発酵食品の取り組みは、引き続き積極的に進めていきます。
なぜ「天然菌」の取り組みを進めるのかは、安全性はもちろんですが、化学的純粋培養や遺伝子改変された微生物は、どのような環境や原料に対しても安定して発酵することができる特性を持っています。その一方で、とても画一的で多様性に劣り、それまで、経験や技術の積み重ねである発酵食品の世界を、工業製品化してしまった一面があります。そのため、「天然菌」による発酵食品を残すことで、自然栽培の原料、伝統的な木桶などの環境、長い歴史に裏付けられた、職人の技術などの、希少な食文化としての価値を残せるものと考えているからです。
人類は、微生物や動植物の遺伝子を人為的に改変する試みにおいて、遺伝子という実体を知り、それを直接操作する現代の技術は、DNAの構造解明からゲノム編集の登場により、その技術が飛躍的に進化し続けています。医療、農業、工業など幅広い分野で応用され、その利便性など、多くの恩恵を受けてきたことは間違いありません。しかし、その発展とともに、新たなリスクも生まれています。そのリスクに向き合い、情報を正しく理解しておくことが、とても重要であると考えています。
ナチュラル・ハーモニーでは、引き続き「危険か安全か」の前に「自然か不自然か」という視点を大切にして、食品を含めた生活を取り巻くすべての環境について、正確な情報発信を続けていきたいと考えています。
(注):一般的に「遺伝子改変」、「遺伝子操作」、「遺伝子組み換え」などの用語の使い方の定義が定まっていないため、ナチュラル・ハーモニーでは、明確に意味を分けて使用していることをご理解ください。
■参考資料:
国際幹細胞普及機構HP
Kobe University「メンデル解題」
LSDB Archive「遺伝子工学の概要と適用」
BBC NEWS 「世界を揺るがす――遺伝子から治療する時代に」
米国国立衛生研究所「放射線の遺伝的影響」
大阪大学 核物理研究センター「放射線の生体影響解明への分野横断による挑戦」
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 関係資料一式
秋田県庁「美の国あきたネット」
一般社団法人 高度情報科学技術研究機構 資料一式
原子力百科事典 関係資料一式
書籍「ゲノム編集の衝撃」:NHK出版
ライフジャーナル「すでに遺伝子組み換え技術は古い技術!?」
ライフジャーナル「放射線育種のゆくえ」
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