ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、「発酵」の世界を食だけではなく少し違った角度で解説してみたいと思います。

古来の知恵から最先端技術へ
発酵技術がもたらす光と影
今回は、「発酵」の世界を食だけではなく、少し違った角度で解説してみたいと思います。まず、天然酵母にまつわる昔話から、発酵の歴史を紐解いていきます。
昔、ユダヤ人の女性が穀粉を水に浸そうとして、うっかり蜜を薄めたカメに入れ、そのまま忘れてしまいました。数日後、カメから甘酸っぱい匂いがしましたが、気に留めずいつものように団子状に練って焼いたところ、一種の発酵パンができたそうです。これが天然酵母による発酵パンの偶然の発見の物語といわれています。その後、13世紀以降のルネサンス文化の広がりとともにパンはヨーロッパ全土へと普及して、各国の風土にあった多様なパンが作られるようになりました。
17世紀の後半になり、顕微鏡が発明されたことによって初めて酵母の存在が確認され、1857年に、パスツールによって発酵の原理が解明されます。彼は「酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に分解する」ことを初めて理論的に解明し、この成果を受けて酵母の研究が大きく進歩しました。このことが、過去数千年にわたり経験に頼っていた時代から化学に基づいた発酵技術の時代へと移行する、大きな転機となります。

伝統の知恵から最先端技術へ
「発酵」と聞くと、多くの人が食卓に並ぶおなじみの発酵食品を思い浮かべるでしょう。微生物の働きで食材が変化して風味が増し、保存性が上がる発酵食品は、食文化に多様性をもたらしました。しかし、発酵の力は、もはや食卓だけにとどまりません。化学の進歩によって、微生物の力を精密にコントロールする「発酵法」が確立され、現代の医療や化学の分野で、なくてはならない技術になっています。
最初に発酵法が工業技術として大きく発展したのは、戦争による影響が大きかったのです。第一次世界大戦中に爆薬の原料となるニトログリセリンを大量生産するため、発酵法が工業技術として利用されるようになりました。そして、第二次世界大戦中には、感染症治療薬である抗生物質のペニシリンの工業的な大量生産技術が確立されました。これにより、医薬品分野でも重要な役割を担うことになります。
現代は、ペニシリン以外にも多くの医薬品が、微生物のつくりだす成分を利用して製造されています。また、うま味調味料の成分であるグルタミン酸やアミノ酸、バイオエタノールのような、再生可能な資源から作られる燃料も微生物の発酵によって生産されており、最近では、石油由来ではない、生分解性プラスチックの研究も発酵法によって進んでいます。

恩恵の裏に潜むリスク
このように、あらゆるものが、微生物を利用した発酵法によって成り立っていますが、これらに使用される微生物の多くが、効率的に目的物質を生産するため、遺伝子組み換えや遺伝子操作が施されています。これは発酵食品でも同じことがいえ、特に最近では、「精密発酵」といって特定の遺伝子を組み込んだ微生物に、特定のタンパク質、酵素、脂質などを生産させる技術によって、動物由来ではない代替タンパク質の生産を行っています。これにより、代替肉や代替ミルク、代替卵などの大量生産が可能になりつつあります。
一般的に発酵法は、環境負荷が小さく、安価な原料で大量生産できるといったメリットがある一方で、当然ながらリスクも抱えています。工業的な発酵法が高度化するにつれ、その発酵プロセスで、意図しない副生成物や培地由来の不純物が製品に混入するリスクがあります。過去には、遺伝子組み換え微生物由来の食品添加物が、適切な安全性審査を経ずに販売されていた事例も報告されています。そして前述した精密発酵の技術のように、動物性タンパク質の代替品を微生物に作らせる方法は、食糧問題や環境問題の解決策として期待されている反面、このような技術が従来の産業や伝統的な食文化、また倫理観にどう影響するか、議論が必要となる場面が出てくるでしょう。

さて、そんな中、ナチュラル・ハーモニーが取り組んでいる天然菌による発酵食品は、遺伝子操作や化学的な純粋培養などを行わず、自然の環境の中に存在する微生物をそのまま利用したものです。現代では、安定性や効率を重視する発酵に関わる製造元のほとんどは、これを危険視することも多く、むしろ避ける傾向があります。それでも、この取り組みを続ける理由は、単純に昔に戻ろうという行為ではありません。現代の経済効率を重視して画一化した発酵食品に警鐘を鳴らし、原料を選ばずとも強力に発酵する改良された微生物を使用することで、原料の質に対する見極めが軽んじられていることにも、注意を向けて欲しいと考えています。
発酵は、単なる伝統技術だけではなく、現代社会を支える不可欠な技術になっているのは確かです。その歴史は、人類が微生物の力を賢く利用し、進化してきた歴史でもありますが、同時に行き過ぎた技術へのリスクも生まれています。私たちは、この素晴らしい技術がもたらす光だけでなく、影の部分にも目を向ける必要があります。情報を正しく理解し、賢く消費することで、発酵の力を未来に向けて、より安全で持続可能な形で活用していくことができるでしょう。
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