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ライフジャーナル(大類久隆)

すでに遺伝子組み換えは古い技術!?

2018.07.13

ハーモニックライフ(調和する生き方)という観点から、ナチュラル・ハーモニーの商品部スタッフ、大類(おおるい)が世の中について考察するライフジャーナル。
今回は、種子法の廃止に垣間みえるグローバリズムについて、前後編にわたりお届けします。


遺伝子を改変する技術は組み換えだけではない。
すでにそれを超える技術が実用化されようとしている。

去る4月1日をもって正式に種子法が廃止になりました。以前のコラムで種子法廃止の問題には、背景として現在の日本の社会がどのような状態にあるかを象徴していると書きました。

種子法が廃止になり、さらに様々な規制緩和によって海外の大企業が開発した、遺伝子組み換えを含めた大量の種子が入ってくる可能性があることも書きましたが、日本では遺伝子組み換えの作物を育てることはすでに解禁されており、国産の遺伝子組み換え作物が市場に出回るのも時間の問題かもしれません。

世間では、どうしても遺伝子組み換え作物のみに焦点が当たりがちなのですが、実はその他の改変技術が急激な進歩を見せており、医学を始めとして農業分野でも実用化が始まっています。その驚くべき内容について書いていきたいと思います。

「遺伝子組み換え」と「その他の遺伝子改変」

まず、「遺伝子組み換え」とは何でしょうか。そして「その他の遺伝子改変」とは、何が違うのでしょうか。

「遺伝子組み換え」は単純に言えば種を越えた交配が行われることです。例えば動物や昆虫の遺伝子を野菜に組み込むことなどがそうです。一方で「その他の遺伝子改変」は同じ種の範囲内で特定の遺伝子を破壊したり入れ替えたりする行為と定義できます。あくまでも今のところは、なのですが。

そもそも遺伝子を操作する行為は遺伝子組み換え技術が確立するかなり前から存在しています。それは農業に限らず様々な分野で応用されているのですが、方法としては放射線を利用する方法、薬品を利用する方法、特殊なウイルスや酵素を利用する方法などに分かれます。

急激に進歩している遺伝子改変技術

人類にとって野菜や果物の栽培の歴史は、同時に品種改良の歴史でもあったと言えます。食べられる部分を増やすことや味を美味しくすること、見た目や形を整えることや病害虫に対して強くするなど、様々な目的で品種改良を繰り返してきました。

現代ではF1(ハイブリッド)種(注1)を代表とする従来の交配の方法に加え、あまり知られていませんが、人為的に遺伝子を操作することで突然変異を誘発する方法が並行して行われてきました。

その代表的なものとして「放射線育種」という方法があります。実験圃場の中でガンマ線や重イオンビームなどを作物に照射しながら、距離や強度を変えて作物が突然変異を起こすのを待ちます。この方法は1950年代から原子力の平和利用の名目で積極的に行われてきたものです。茨城県常陸大宮市にある屋外実験圃場はガンマーフィールドと呼ばれ規模は世界最大と言われています。現在までに少なくとも100種類以上の穀類や野菜や花の直接的な放射線照射による改良が行われてきました。代表的な品種としては米では酒造用の米が多く「レイメイ」「美山錦」など、梨の「ゴールド二十世紀」「寿新水」大豆の「ライデン」などがあります。この名称を聞くとやや古い品種という印象を受けますが、すでにこれらの品種から従来の交配の方法によってさらに多くの品種が作り出されている状況です。

「放射線育種」以外の方法で遺伝子を改変した作物も含めると世界で1800種類以上の作物が存在することになります。さらにこの技術は農産物に限らず、発酵菌の世界でも一般的な技術とされており、日本でも馴染みの深い麹菌や乳酸菌を始め多くの菌が遺伝子を改変してあらゆる食品に利用されています。あらゆる、と言うのは、発酵食品だけではなく旨味のもとになる酵母エキスなども、その技術が応用されているからです。

しかし遺伝子を操作して改変する技術というのは、あくまでも突然変異を促す技術のため、何が起きてどのような結果になるかは予想がつかない部分があります。また最終的に意図したような有効な結果を得られる確率はかなり低く、これは、遺伝子組み換え技術も同じです。狙い通りの部分を組み換えるには、実験を何千、何万と繰り返して始めて成功する、偶然を待つ技術とも言えるでしょう。

遺伝子を意図通りに書き換える「ゲノム編集」

ところが最近のバイオテクノロジーの世界は驚くほどの進化を遂げています。この技術が一般的になると、人類の未来はまったく変わってしまうかもしれません。それは「ゲノム編集」と呼ばれ、まさに神の領域に触れる技術と言われています。 ゲノムとは、染色体の中の遺伝子に含まれる遺伝情報のすべてを表す言葉ですが、これはすべての生物が共通して持っているものです。この遺伝情報を意図した通りに編集しようというのが「ゲノム編集」なのです。

すでに世界中の研究者が競ってこの研究を進めており、その成功率は数十パーセント以上という驚異的な確率で遺伝子が書き換えられるのです。そして「ゲノム編集」を行う方法の中でも最も注目されている技術が「クリスパー・キャス9」(注2)という方法です。

その「クリスパー・キャス9」が注目されている理由は、先に挙げたその驚異的な成功率だけではなく、非常に簡単にできて、あらゆる生物に応用出来ることです。今まで遺伝子の改変には多くの時間と労力、そしてお金がかかっていたものが、ある程度の専門知識があれば誰でもできてしまうレベルになっていることです。

あらゆる動植物の遺伝子の改変がビデオテープを切ったり貼ったりして編集するように簡単にできるということです。すでに医療分野では研究が目覚ましくHIVの治療では、患者の血液中の免疫細胞を採取して遺伝子を編集して体内に戻すことで、免疫力を示す数値が薬を服用する必要がないほど上昇した報告があります。これによりエイズの発症が高い確率で抑えられる可能性があり、エイズも不治の病ではなくなろうとしています。さらにガンや遺伝的要因の難病を遺伝子レベルで修復する研究も進んでおり、臨床試験に向けての具体的な計画も出てきています。

「ゲノム編集」はどこまで許されるのか?

しかし当然ながら医療分野の研究が倫理的に果たしてどこまで許されるのか、という問題が必ず出てきます。例えば人間の特定の部位に属する遺伝子を改変することと受精卵そのものの遺伝子を改変することは意味がまったく異なってきます。受精卵の遺伝子を改変することは、以前ニュースでも話題になった「デザイナー・ベビー」の誕生を意味します。つまり親の好みに合わせた子供ができるということです。髪の色を変える、瞳の色を変える、背を高くする、筋肉量を増やすなどいくらでも可能になります。そして重要なことはその性質が世代を超えていくということです。

研究はもちろん医療分野だけではなく動物や植物にも及んでいます。筋肉量の多い牛や魚、中にはマグロを養殖しやすいように性格を大人しくする研究など、また米の収穫量を増やすことや腐りにくいトマトなど、さらにエネルギー分野でも研究が進んでおり、油を多く含む藻の一種を改良することで大量の油を採取してバイオ燃料として、化石燃料に頼らないエネルギー源として、数年後の実用化を目指している例もあります。

そして「ゲノム編集」された動植物と「遺伝子組み換え」された動植物が同じものとして扱うかの議論が始まっています。どちらになるかにより法的な規制がまったく変わってきます。もし遺伝子組み換えと同じであると判断された場合「カルタヘナ法」(注3)という法律の規制がかかります。それは実験段階であっても外部から遮断された環境で厳密に管理され、外部へ拡散をしないよう細心の注意を払い、生態系にどのような影響が起こるかの検討を含めて様々な手続きや報告の義務が生じます。しかし、もし同じではないとすると法的な規制はなく、すべては研究者や関係機関の自主的なルールに委ねることになります。

このように、今まで100年かけてやってきた突然変異の品種改良をわずか数年で完成させようとしているスピードです。しかもゲノム編集の技術の凄さは、遺伝子組み換えと違って突然変異を待つのではなく、狙い通りの遺伝子を高い確率で編集できて、その影響範囲がある程度予測できる点にあります。

さて、今回はゲノム編集という最先端のバイオテクノロジー、つまり遺伝子工学の世界をご紹介しましたが、あくまでも偏らず中立の立場で書くように努めました。それはぜひ、皆さんで判断していただきたいからです。この技術は間違いなく多くの命を救う可能性があります。

しかし人間がどこまで遺伝子の領域をコントロールすることが許されるのでしょうか。 この問いに対する答えを研究者だけに任せるのではなく、一般の人々を含めた幅広い議論が必要だと思います。ただし、ひとつ大切な視点として、そこにどのような目的があり人類の未来に本当に役立つものであるかを見極めることでしょう。


【参考資料】
『一般社団法人 高度情報科学技術研究機構』 資料一式
『原子力百科事典』 関係資料一式
『ゲノム編集の衝撃』 NHK出版

【注釈】 
注1:一代交配種とも呼ばれ、メンデルの遺伝の法則に則り形質のかけ離れた同士を受粉させることで、1代目に優性な形質が表れるのを利用し、色や形の揃った都合の良い形質を作る目的で行われているが、2代目以降は劣勢の形質が表れるため、タネの継続が難しく毎年新たなF1種のタネを購入する必要がある。

注2:遺伝子改変技術の方法のひとつでゲノム編集と言われる精度の高い技術。その中でも操作するDNAを極めて高い効率で狙い通りに改変できる方法として注目されている。

注3:遺伝子組み換え生物の実験や生産する場合に自然環境や生物の多様性への悪影響を防ぐための国際的な法律。使用形態に応じて様々な規制や審査があり、問題がないと評価された場合に限り承認が下りる。


大類 久隆
ナチュラル・ハーモニーの商品部担当。
とにかく何でも調べるのが大好きです。
自称、社内一の食品オタク。
食べることも忘れて日夜奮闘中……?


★ナチュラル・ハーモニーは、自然栽培生産者とともに自家採種に取り組んでいます(お米はほぼ全て自家採種、野菜はF1種も取り扱っております)。 また、固定種・在来種・伝統野菜の種を守るため販売を行っております。以下店舗では、「春・夏蒔きの種」が2月頃、「秋・冬蒔きの種」は9月前後の入荷予定です。

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