菜園料理家 藤田 承紀さん「進んだ先に 道が開ける」 | ナチュラル・ハーモニー
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つくり手紹介

飲食店・小売店

菜園料理家 藤田 承紀さん「進んだ先に 道が開ける」

2018.09.9

ふじた よしきさん…1982年千葉県生まれ。イタリア・トスカーナ地方のレストラン「IL PELLICANO」や、ローマの老舗「AL CEPPO」にてイタリア料理を学ぶ。帰国後は「食卓に笑顔を」をモットーに料理家として活動を開始。現在、各種アレルギー・ビーガンに対応した料理教室、ケータリング、レシピ開発を展開。シェフを務める「らんどね 空と海」では、ナチュラル・ハーモニーの食材も使用している。

  メニューにある「本日のピザ」からマルゲリータを選ぶと、伝票に注文内容が一文字ずつゆっくりと書かれていった。書き終えると今度は、「ひとつ?」と注文数の確認。ゆったりとしたオーダーのやり取りに最初は戸惑いつつも、これがレストランの日常だとわかると、笑顔がこぼれてしまう空気へと変わっていった。

 千葉県船橋市にある「空と海」は、障がい者を対象にした福祉サービス事業所だ。藤田 承紀さんが料理を担当するレストラン「らんどね 空と海」は、2017年4月に飲食部門としてオープンした。

 料理の仕込み・洗い物・掃除といった裏方業務に加え、オーダー受注などのホール業務も利用者さんが担当している。また、利用者さんが描く個性的な絵や文字も、メニューや看板に取り入れられている。

 「最初はみんなできるかな~って心配もあったんですけど、逆にできることしかしないので余計な心配でしたね(笑)。それでもみんなメキメキと成長していくし、周りがあたふたしている時にもマイペースだったり、すべてが新鮮で見習うべき部分も多いです」。毎日が発見だと、藤田さんは楽しそうに話す。

 「空と海」は障がいを持った人たちの可能性を、「紙漉き」を通じて伸ばしたいと1995年に活動が始まった。身体づくり・ものづくりをコンセプトに、現在は機織り・刺し子・染色・縫製をする布部門の他、陶芸や木工などが行われている。店内のテーブルやイスは木工部門の作品。窓にかけられた和紙のカーテンが日差しを和らげ、店内を穏やかな空間にしている。

 らんどねの他にも、藤田さんの活動は様々だ。料理教室の講師やレシピ提供、その傍ら自ら畑に立ち、野菜を栽培する。そんな藤田さんの肩書は「菜園料理家」。さらに週に数回レッスンを受け持つダンサー、という顔も持つ多才な人物だ。

 「シェフじゃなくて『料理家』になろうって思ったのは、ダンス教室の子どもたちが食べていた夜食がきっかけでした。夜8時過ぎに発表会のリハーサルをしていた時、みんなが食べていたのがお菓子だったんです。もちろん中途半端な時間だったし、極端な例を見たと思うんですけど、コンビニのおにぎりですらなかったのはショックでした。でもシェフはお店から動けないし、子ども同士でレストランは行けない。それなら家庭のレシピを提案する料理家になれば、子ども達の口に入る家庭の食事を変えられるかなと思ったんです」

  料理に興味を持ち始めたのは20代半ばの事だ。大学を卒業後はプロのダンサーとして活躍。大手プロダクションとの契約も得て順風満帆と思えた道中で、練習中膝に重症を負ってしまう。そんな時リハビリで訪れたのがイタリアだった。「歩く事がリハビリだったのでどこでもよかったんですけど、その時はもう踊れないと思ってふてくされていたので、世界遺産を見ながら少しでも感動したいなと思って」
 
 なんとなく選んだイタリアだったが、現地で出会った人の大らかさは落ち込んでいた藤田さんを救った。またイタリア人の食を楽しむ文化にも魅了され、料理をやりたい気持ちが芽生えた。定期的にイタリアへ通いはじめ、知人のつてでレストランを手伝うようになった。
 帰国後は料理家のアシスタントをしながら経験を積み、勧められて参加した料理コンテストでは優勝することもあった。その後イタリアで1年間の本格的な修行を経て、料理家としての歩みが始まった。

 自分が納得・理解しているものを提供するのがモットー、という藤田さんが農業に興味を持ったのは自然な流れだった。野菜を知るために、勤めていたレストランを辞め、農業に専念することを決めた。「遠回りかもしれないけど、これが一番早いと思ったんですよね。僕は思いついたらその瞬間に行動してしまう。考えて5しかできないなら、考えないで10やったほうがいいかなって。失敗? あまり考えないです(笑)」

 最初に取り組んだのは自然農法。安心・安全や食味というよりは、単純でわかりやすかったからと話す。仕組みを理解していないまま肥料を使うよりも、「何も入れていない」で説明が終わる。機械を使わず、鎌だけでできるという取っ掛かりやすさも都合がよかった。「でも全く育たなかったですね。種を蒔いて草をかぶせればいいって教わったんですけど、野菜はものすごく小さくて、美味しくもなかったです(笑)。このままじゃだめだと思って有機栽培を習い始めたら育つようになって。有機栽培のやり方で、少しずつ肥料を抜いていったら、自然栽培になっていたという感じです」
 
 1年後には、わずかだが農作物の収入が入るようにもなった。畑では野菜の他に、地主さんの意向で和綿を栽培していた。藤田さんは収穫後の綿から糸を紡ぐことができるようになっていた。しかし糸はできるものの、その使い道がなかった。そんな時、畑の近くに建ったのが「空と海」の作業所。施設の布部門では機織りを行っており、藤田さんにとって願ってもない巡り合わせだった。

 「紡いだ糸を使って機織りをしながら、他の作業も手伝うようになりました。僕は生まれつき左耳が聞こえない障がいを持っていて、いつか福祉に関われればと思っていたんです。でも作業所に通うようになって気になったのは、いつも決まった安いお弁当を食べていたことでした。それに人によっては、一生きちんとしたレストランに行くことがないという話を聞きました。美味しいものを食べるってすごく幸せなことなのに、言葉にできない悲しい気持ちになりました」

 藤田さんは施設の人たちに美味しい料理を食べてもらおうと決心し、月に一回ランチ会を開くようになった。カセットコンロでの調理だったが、味わったことがないイタリアンの美味しさに、みんなとても喜んでくれたという。そんな中、施設へ送迎する家族や利用者さんが食事できる場所をつくろうという計画が立ち上がった。藤田さんも構想に加わり、「らんどね 空と海」のオープンに至った。

 納得した素材で、美味しい料理を出す。大切にしていることはシンプルだ。しかし素材に栽培方法の基準を持たず主張もしない。こだわりを強く押し出し、限られた人に気に入ってもらうより、どんな方にも来てもらって料理を楽しんでほしいと考えている。それでも自然栽培を選ぶことが多いのは、わかりやすくて美味しいという理由からだ。調味料は基本塩とオイル。自然栽培の素材を使うことで調味料の種類は減り、野菜の個性が出るようになったと話す。

 素材同士だけでなく、人との相性を楽しむのも藤田さん流だ。「僕が好きな生産者さんの素材でつくった料理と、好きな作家さんのお皿って相性がいいんです。好きな卸担当の人が勧めてくれる野菜は、間違いなく僕の料理に合う。自然栽培だから選んでいるっていうよりは、好きな方が選んでいるのが自然栽培という順番なんですよね」

 人手不足が嘆かれる料理業界において、らんどねで働く人材は宝物だと藤田さんは言う。料理と福祉はもっと関わっていける。障がいを持った子たちと過ごすなかで強く感じるようになった。

 「いまは、『大変・非効率・割に合わない』という理由で、いろいろな手仕事が消えています。でもここには、それを楽しく続けてくれる人たちがいる。一回覚えたことは忘れないし、障がいを持った子たちが、失われていく手仕事の継承者のようになっていくんじゃないかなって思っています。

 メリットだけじゃないだろうけど、消えつつある手仕事を助けてくれるために、みんながいるんじゃないかって信じてるんですよ。誰でも得意なことがあって、活きる道がある。それは健常者も障がい者も一緒だと思っています。ここを技術が集う場所に整えることで、共鳴してくれる人も集まりやすくなるし、おもしろい化学変化が起きる場所にしていきたいですね」

 やりたいことは100のうち3くらいしかできていないと話す。もっと彼らの力が発揮される仕事を増やしたい。焦りもあるが、効率や生産性とは違う流れに身を委ね、そこから得られる楽しみを藤田さんは知っている。

 「randonnee(ランドネ)」には遊歩道や回り道という意味がある。決められた最短の道を取る方法「method(メソッド)」と相反する言葉であり、自由な発想を活かす利用者さんに合っているとレストランの名前に掲げられたという。
 まっすぐだと思っていた道は、実際曲がりくねっていた。それでもぶつかりながら進み、つまずいて立ち止まり、ふとした回り道で料理家という生き方と出会った。最短距離でも駆け足でもない。藤田さんのランドネは笑顔とともに続いていく。

藤田さんのお料理(ランチコースのみ)は以下でお召し上がりいただけます。

「らんどね 空と海」千葉県船橋市神保町177-8
Tel.047-401-3285 営業時間 12:30〜16:00(月〜水)
※ランチコースは木・金・土の11:30〜15:00(L.O 14:00)で完全予約制

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このコラムを書いた人

髙橋 寛幸

お米担当。栽培管理から精米まで、お米に関わる事はなんでもやってます。タダモノではない植物「稲」について、あーだこーだと自然栽培農家と話すのが至福の時間。

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