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ものづくりのこと

食品

ダイイチ 立石 康隆さん「本枯節のはじまり」

2017.05.31

 ナチュラル・ハーモニーオリジナルの鰹節は、愛知県の有限会社隆海屋商店から届けられる。近海一本釣りのカツオに、天然のカビを3回以上つけた本枯れ節が素材だ。隆海屋商店では、これはと思う本枯れ節を仕入れて熟成と削りを行っている。長い時は1年もの時間を置いて、風味が整ってから出荷する。
 日本近海におけるカツオの漁獲量は年々減少している。また、天然のカビ付けをした鰹節をつくる製造元も近年ほとんど見られなくなった。現状を確認するため、隆海屋商店が信頼を寄せる鰹節の製造元を訪問した。

 鹿児島空港から車を南に走らせること約1時間半。薩摩半島の南端に位置する枕崎市に辿り着いた。枕崎市は300年以上もの長きにわたり、鰹節製造の伝統を守り抜いてきた。現在では日本有数のカツオ漁獲量を誇り、鰹節製造量において全国一位のカツオの町といえる港町だ。町中へ入ると、鰹が燻された芳しい香りが漂ってきた。この町の一角に、鰹節製造を営む株式会社ダイイチが工場を構えている。
 代表取締役の立石康隆さんが、笑顔であたたかく迎えてくれた。祖父が54年前に創業し、立石さんは20歳で入社、その後、父親から28歳の時に経営を託された。
 「小さい頃から手伝いをしていました。やっぱり長男の僕が継ぐんだろうなって単純に思っていました」
 大学生の頃、父親からニュージーランドでサバ節製造の指導と買い付けをしてほしいと頼まれた。鰹節の製造は幼少の頃より祖父や父親から教わり、身に染み付いていた。大学を休学して異国に踏み込んだが、相場の変動などの影響で1年ほどで帰国することになった。復学も考えたが、そのまま実家を手伝うようになり、社員になった。祖父から続く、職人としての意識が目覚めていった。
 立石さんに案内されて工場に入ると、機械が轟音を唸せる傍ら10余人の従業員がカツオを捌いていた。そのほとんどが外国人実習生だ。カツオの頭が機械で落とされ、包丁で身が切り分けられていく。黙々と作業は続く。
 「体力的にきつい仕事ですから、日本人の働き手はなかなか来ません。外国人の実習生を受け入れたことで働き手が充実し、手作業で行う工程を増やすことができました」。昨年はフィリピンにまで人材を探しに行った。それほど手作業にはこだわりたい。機械で解体作業を行うと、身を傷つけたりしてロスが多くなる。
 「機械と包丁とでは味にも違いがでてくるんですよ」。そう言って、立石さん自ら包丁をとり、手際良くかつおを捌く。機械の圧で切断されたものよりも、身の断面はツヤツヤしていてとても滑らかだ。

 漁獲方法によっても品質が大きく異なる。巻網・遠洋一本釣り・近海一本釣りの3種類。近海一本釣りは近海ものとも言われ、その名のとおり日本近海で1本ずつ釣りあげ、氷水に漬けて数日で水揚げされる。海面のカツオだけを釣るので脂などの品質に偏りが少ないのが特徴だ。
 一方、巻網と遠洋一本釣りは水揚げまでの期間が長いため、鮮度が落ちないようにブライン凍結といって、漁獲後すぐに塩分濃度約22%の濃い塩水に浸けて急速冷凍する。ここに、隆海屋商店が近海一本釣りの鰹節にこだわる理由がある。近海ものは削った時と出汁をとった時それぞれで他とは香りが全く違うと隆海屋商店の神谷社長。ブライン液につけていないため、塩味がついていないことも近海ものを選ぶ理由のひとつとも話す。
 巻網は水深200mにも及ぶ巨大な網で、一度に根こそぎカツオを捕える。近年、世界のカツオ需要の高まりから、各国がこの巻網によって大量漁獲を行っている。立石さんは15年ほど前からカツオの漁獲量が年を重ねる毎に少なくなってきていることを肌で感じてきた。今は危機感さえ覚えているという。
 「外国人が海水魚を食べるようになってきたのは大きいです」。その影響は過去30年間ほぼ横ばいだったカツオの仕入れ値の上昇に表れていると話す。人間の食文化の変容が生態系に与える影響は大きい。
 解体されたカツオは、金属製の籠に並べ約95℃のお湯で3時間近く煮る。長時間煮ることでタンパク質が凝固し、身が固くしまる。そして数十本もある骨を、身を傷つけないよう手作業で1本ずつ丁寧に取り除いていく。人の手によってでしか成し得ない作業だ。
 「みんな骨の位置がわかるんですよ」。立石さんは誇らしげに言う。それを聞いた従業員の皆さんの顔から笑みがこぼれた。現場監督を任されていた時、従業員の作る鰹節のクオリティに満足がいかず、感情を爆発させる時もあった。妥協したくなかった。
 「当時は親父よりも厳しく指導していましたね。従業員の熟練度は地域じゃ一番だと思います。ダイイチっていうぐらいだから(笑)」。ジョークも交えて場を和ませる。難しい工程も従業員の腕を信頼して任せている。そんな立石さんが大切にしていて、かつ最も難しいという作業が鰹節の選別だ。まれに身の中にスキ(空洞)がある。経験と感覚を元に、見た目や触感からそのスキを見抜く。良い節に仕上がっているのを見た時は何よりも一番嬉しい。
 骨を抜き終えた後は薪を燃やし、100℃弱にした室に入れて燻す「焙乾」を行う。水分を飛ばすことで品質が保たれる。薪は鹿児島県産100%。カシやサクラ等の堅木を使用し、煙で香りがつく。薪は一日約1・5トン使う。各工場が大量に薪を消費するため、町中に薪が積み上げられたコンテナが散在している。2時間半おきに薪をくべ、2~3週間毎日燃やし続ける。薪のため温度管理にも神経を使う。燃焼に波を持たせ、冷まして、温めてと交互に繰り返すことで、より乾燥させやすいという。
 「近海ものは身がとても柔かいんです。だから鰹節になったときにも身が割れたりします。火力の調整が大きく影響しますね」
 その近海ものも年々少なくなってきていると話す。高値で取引されるため、水揚げしたものに余りが出ないと仕入れられない。鮮魚の価格で仕入れても鰹節として採算がとれない。今では近海ものは仕入総量の5%にも満たなくなってしまったという。カツオの相場によって枕崎港で近海ものが手に入らない時は、他の港まで探しに行く。なんとしても仕入れる。お客さまには、やれるだけのことはやって応えたいという思いがある。
 カツオは焙乾を経て硬くなり、黒いタールが表面を覆う。これが鰹節削り節「花かつお」の原料、荒節だ。毎日5~6トンの鰹(約2000匹)を捌き、約1トンの荒節が出来上がる。余った部位で廃棄するものは一つもない。端材は全て別工場で家畜用の飼料素材などにかえる。カツオの命を残さずまるごと頂いている。
 出来た荒節は、全体量の8割にカビ付けを行う。カビ付けは先人達の智恵が詰まった技法で、自然界に浮遊しているカビの力を借りる。カビが付着し繁殖すると、鰹節内の水分がゆっくり取り除かれ豊かな香りを閉じ込める。立石さんは、この天然のカビ付けを祖父の代から守り続けている。高湿度の室に鰹節を入れ、24日ほどかけて鰹節全体にカビがのるのを待つ。この工程を少なくとも2回以上行う。人工培養のカビに比べて時間がかかるため、一般には割に合わない製法だ。周囲で天然のカビ付けをおこなう工場は数社あるかどうか。なぜ続けることができるのか。

愛知県岡崎市 有限会社 隆海屋商店 そば屋や醤油屋向けのかつお節を専門に扱うかつお節屋さん。業界では非常識ともいえる、脂の乗ったトロかつおを使ったかつお節を扱う。これでしか味わうことのできない濃厚なだしが楽しめる

 「必要とされるなら、どんなに難しい注文でも応えたいと思っています。それが自分を成長させてくれるんです」。とても前向きな答えだった。父親が隆海屋商店に鰹節を卸すようになり、そして天然のカビ付け鰹節を求めていた私たちが立石さんと巡り会った。鰹節が世代を越えて縁を紡いでくれたように思えた。
 カツオの漁獲量・近海ものが減っても、立石さんは不安には全くとらわれていない。
 「近海ものだけが良いものかというと、決してそんなこともないと思っています。どんなカツオも活かしてあげる方法を考えることが大切です」。単純に物事や状況を良い悪いで判断しないようにしている。いつかは世界に鰹節を広めたいと大きな夢も思い描いている。世界を明るい気持ちで目指す。どんな困難にも苦労を惜しまずに立ち向かう覚悟が見えた。
 会社に届いた本枯れ節を改めて見つめると、ほんのりと心が熱くなった。

隆海屋「花かつお」
天然カビ付け熟成製法。脂や独特のうまみが含まれた血合い入りで、強い酸味とコクがあり濃厚な出汁がとれます。出汁の味を出したいお料理に。

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