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ドイツパンと菓子の店 ビオランド シュラーク・ティルさん 「心の中に染みるパン」

2018.12.30

シュラーク・ティルさん…1977年生まれ。ドイツ・ ハイデルベルグ出身。趣味は山登り・マウンテンバイク。植物が好きで、家の中は盆栽・多肉植物など植物でいっぱい。好きな食べ物は、梅干し・たくあん・納豆。


長野県 山形村。田園風景が広がる場所に、シュラーク・ティルさんが営む「ドイツパンと菓子の店 ビオランド」の工房があります。

奥さまのさやかさんと10歳・3歳の男の子、6歳の女の子の5人家族で暮らすティルさんは、自宅の工房でパンをつくっています。
朝7時には工房で生地の準備を行い、15時半くらいまで順々にパンを焼いていきます。出荷作業・休憩を挟み、夕方に翌日の仕込みをします。子どもたちと遊んだり、麦畑で作業したり、育てている植物の世話をしているうちに、あっという間に一日が過ぎていきます。

ドイツ人でありながら玄米ごはんとお味噌汁で育ったティルさん。季節の野菜や雑穀を取り入れたおかずや、焼き魚が食卓に並ぶこともありました。家族の健康のため、母親はティルさんがお腹の中にいた時から和食中心の食生活を送っていたそうです。

「本格的に食を学びたい」。そう思ったのは、ドイツで自転車競技の選手として活躍していた頃。マクロビオティック(※1)の食事に出会い、体の調子が良くなりました。競技成績も上がり、驚きと同時にマクロビオティックをもっと知りたいという気持ちが起こり、発祥の地である日本に行くことを決意。27歳のとき、ワーキングホリデーのビザを利用して来日しました。

恵比寿(当時)の「クシ マクロビオティックスクール」で食材や調理法を勉強し、卒業後は広尾のカフェレストランに勤務。有機栽培の野菜を中心とした料理を出すお店のシェフを務めました。そこで、お客さまのデザートへの反応が良いことに気づいたティルさん。

「素材を活かしたものが喜んでもらえるのなら、こういうものをつくっていこう」。この思いが、現在の取り組みへと繋がっていきます。

ティルさんの人生に大きな影響を与えるきっかけとなったのは、千葉県いすみ市にあるブラウンズ・フィールド(※2)での研修でした。カフェや農園・宿泊施設が集まる自然に囲まれた場所で、同じ志をもった仲間と共同生活をしながら、シンプルで豊かな暮らしを実感する日々を過ごします。その時に出会ったさやかさんと意気投合し、結婚。西荻窪で「ナチュラル ジャーマン スイーツ」という店を開き、身体と自然にやさしいことをコンセプトとして掲げ、お菓子の製造・卸販売を始めました。

その後、長野県に拠点を移すことを決めた2人。築100年以上の大きな古民家を自分たちで修復して農家民宿を営み、週末はパンを販売。山羊を飼ったり、麦や野菜を育てたり。自然に囲まれた土地で、夫婦で思い描いたことを一つずつ実現していきました。引っ越して2年目には最初の子どもに恵まれ、子育てに仕事に全力投球の日々を送るようになりました。

ある日、日本で市販されているパンを食べて、ドイツパンとの違いに大きな衝撃を受けたティルさん。やわらかくて甘く、ふわふわと軽い日本のパン。ライ麦が主原料のドイツパンは、ずっしり詰まっていて酸みがあり、味も食感も別ものでした。
美味しいドイツパンを、日本で家族と一緒に食べたい。自分でつくることができないだろうか。そう考えたティルさんは、独学でパンづくりの研究を始めます。

試作を繰り返すうちに気づいたこと。それは、農薬を使わずに栽培され、添加物を含まない粉で焼いたパンは、素材の味がしっかり感じられるということでした。何よりごはんのようにシンプルで飽きのこないパンは、毎日の食事にぴったりです。食べたいからつくる。そうしてつくられたパンは、いつの間にか「皆に食べてほしいパン」になっていました。

パンづくりは、自家製酵母を粉と水でおこすところから始まります。ティルさんがつくっている酵母は、マイルドな香りの「小麦サワー種」、酸みと旨みを醸し出す「ライ麦サワー種」、豊潤でフルーティーな「スペルト小麦サワー種」、最も麦本来の香りが感じられる「自然栽培小麦を使ったサワー種」の4つ。つくるパンに合わせて酵母を使い分けることで、それぞれの特徴をいかした風味・香りが生まれます。

生きもののように日々変化する酵母は、毎日のチェックが欠かせません。冬の寒い時期にはなかなか醗酵せず、逆に暖かい時期にはどんどん醗酵が進んでいきます。

低温でゆっくり、必要な時間をかけて……。「パンは生きもの」そう話すティルさんは、パンづくりの難しさ、そして面白さを日々感じているのだそうです。

「焼き上がったときは、本当にいい匂いで幸せ」。香ばしく焼けた皮が放つ小麦の甘い香りに、自然と笑みがこぼれるそうです。
粉の風味がしっかりと感じられ、口溶けもよく、いつまでも食べていたい味……。ティルさんがつくるパンにはそんな魅力があります。

こだわりのパンづくりは手間も時間もかかります。まわりから「そこまでこだわりすぎなくてもいいんじゃない」と言われることも度々。

「でも材料にこだわりをなくすと、本当に美味しいパンはつくれない。そういうものをお客さんに販売する気にはなれません」。パンづくりに必死に打ち込んできた経験があるからこそ、ティルさんは心からそう思うのだそうです。
 

噛みしめるほどに、心の中にまで染みていくような美味しさのパン。つくり手の愛情をいっぱいに受けて育ったティルさんのパンは、食べる人を温もりでやさしく満たしてくれます。


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